なんだろうな、このリアルな空気感。曲づくりをする同棲中の恋人せいいち(太賀)を食べさせるためキャバクラで働くツチダ(臼田あさ美)。もちろん恋人のせいいちには内緒だ。ツチダは店に来る客と愛人関係になり、稼いだお金はせいいちに見つからないように隠していたが、ある日それが発覚して、ふたりの関係に亀裂が入り始める。
せいいちは作曲をすると言いながらグダグダ暮らしていた生活を一変し、堅実に働き始める。仕事を掛け持ちするせいいちとはすれ違いが多くなったツチダは、ある日、ひさしぶりに出会った昔好きだったハギオ(オダギリジョー)と意気投合して、彼との付き合いにのめり込んでいくのだが。
とくに決定的なドラマが起こるわけでもない。激烈な性格を持った人間が登場するわけでもない。物語は坦々としたリズムで、ひどく脱力した感じで進んでいく。登場人物の誰もが、なるほどなというリアルを感じさせるのだが、演技がアマチュア的でもない。すべての登場人物に日常の感覚が備わっており、それを役者たちがさりげなく演じている。
この「さりげなく」進む感じが、この作品のキーノートだ。彼らや彼女たちとは、年齢も離れているし、若者として生きた時代もまるっきり違うのに、なぜか心の中身にシンパシーを感じてしまう。つくられた感をまったく感じさせない演出と人物設定は秀逸だ。
新宿では武蔵野館とシネマカリテの系列館の両方で上映されるほどの隠れた人気。多分、その作品のなかに潜んでいる「エアー」のようなものが、観る者を魅了してやまない気がする。原作は魚喃キリコのコミック。とはいえ、デフオルメされたコミック的設定はいっさいなく、等身大の日常の物語が展開していく。ダメ人間をやらせたら天下一品のオダギリジョーが、この作品でもいい味を出している。やくしまるえつこの歌も素晴らしく作品にマッチしている。
