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ビジランテのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

ビジランテ(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太の三兄弟が本当に素晴らしい。全員完璧な配役と説得力。大森南朋は何考えているかわからないヤバイ奴感が最高。鈴木浩介は小物感が最高。桐谷健太はぶっきらぼうな熱血漢が最高。特に桐谷健太は今まで見たどの作品よりも魅力的に見えた。

作品としては荒削りで、埼玉の田舎における一つの土地をめぐり兄弟だけでなく政治家やヤクザを巻き込んだ争いが繰り広げられる話。ただストーリーというよりも、各キャラクターの強烈なパワーが凄まじい。圧倒的に狂って見える借金まみれでジャンキーDV野郎の長男が実は一番真っ当で、社会的に一番しっかりしていそうな市議会議員の次男が一番しょうもないクズという対比の構図がすごい。そして三男が物語全体のバランサーと推進力として非常に上手く機能している。

特に次男は本当に気弱なクズ野郎で、汚れ仕事は全部他人に押し付け、身内を犠牲にした葛藤を乗り越え出世していく。心が折れそうでギリギリ踏み留まる難しい芝居をこなした鈴木浩介がとても良い。暗躍する妻を演じた篠田麻里子の存在感も良かった。彼女の演技というより立ち姿の説得力がとても良いので、配役をした人が上手いのだと思うが。

長男はDVのジャンキーで風俗嬢をレイプするクズだが、あの環境で育ち、弟をかばって口を割らず、しかし耐えきれずに逃げ出した、最も哀れで不器用な男なのだと思う。長男の彼女が彼の死を本気で悲しんでいたのも、そのあたりを見抜いていたからではないかと思わせる。父親の暴力性を一人で受け継いでしまった彼は、あまりに真っ直ぐで愚かだった。大森南朋は佇んでいるだけで存在感がありすぎるからずるい。

現場から逃げ出した三男が、最後長男を殺した男をどうしても許すことができなかったのも物凄くぐっと来る。次男が親を継いで議員になったのに三男はヤクザのケツ持ちをしているという現状の背景に、やっぱりどうしようもなくやるせないものを感じる。それでも文句の一つもこぼさず実直に仕事をこなす彼は、遺産を欲しがらないし、長男に念書を書かせることなどできないし、父の骨を手放せないし、"もう一度三人で話し合う"ことにこだわり続ける。だからこそ、ラストはあまりに切ない。ガソリンスタンドを横切る瞬間にBGMが途切れる演出は最高。話が進むに連れて桐谷健太が圧倒的な"主人公"感を見せるから、あのラストには余計に来るものがある。あんな絶望感ない。

焼肉屋の金属製の箸が掌を突き抜ける暴力描写は、リアリティは無いけども最高だった。桐谷健太の悲鳴とともに机の下から徐々に箸が出てくるえげつなさ。この映画、全体的に気の毒になるレベルで桐谷健太一人だけ芝居のカロリーが高すぎ。最高です。ただ埼玉の田舎感や小ささを表現するためだと思うのだが、地元ヤクザ役の迫力があまりに無くて残念ではあった。どうやら役者ではなくラッパーらしいが、小物感が凄かった。こちらをある程度怖そうに見せた上で、横浜の都会ヤクザや長男がそれを上回る迫力を出す、というふうにしてほしかった気もする。

イマドキの調子こいた若者と中国系移民との間に繰り広げられる、どっちもクズな感じの醜い争いはちょっと痛快にすら感じた。煽る篠田麻里子の暗躍感凄い。

とにかく地方都市の暗部をずっしり感じる圧巻の作品。架空の市なのに、背景に映り込むゆるキャラが葱を強調していて深谷感を演出していたのはちょっと笑った。
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