Kumonohate

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のKumonohateのレビュー・感想・評価

3.9
純粋にエンタメ作品として見る限り、実に面白い。「ペンタゴン・ペーパーズ」同様、議会だの演説だの議論だのそんなシーンばかりなのに、どうしてこんなにも飽きさせずにスリリングに作れてしまうんだろうと感心する。超絶特殊メイクのゲイリー・オールドマンの演技も凄かった。必ずしも高邁な政治理念を持っているワケではなく、私人としては大酒飲みで癇癪持ちという、多面的で一筋縄ではいかないチャーチルの人物造型も素晴らしかった。

だが、見ているウチに、そこに描かれていない歴史的背景(とはいえ知識として少し知っている程度だが)がかぶさってきて、純粋なエンタメ作品としては楽しめなくなってくる。そして、次第に空恐ろしい気持ちになってくる。

何故なら、世界中に植民地を持つ大帝国(大英帝国)が、新たに大帝国を築こうとする勢力(ナチス・ドイツ)に対し、陰りの見え始めた繁栄を守ろうとし、それが守り切れないのなら最後まで戦い抜いて栄光の元に滅んでいこうとするという、誇大妄想(チャーチル)vs誇大妄想(ヒトラー)の物語に見えてくるから。

また、ヨーロッパがことごとくナチスに蹂躙されるも、最後の砦としての島国のみが抵抗したことにより、最終的にはナチスを打ち破ることに成功した。そんなストーリーは、ヒロイックだしカッコイイしおそらく自国民にとっては誇らしいだろう。だが、見ているウチに、そのヒロイズムの裏に潜む過度なナショナリズムが浮き上がってきてしまうから。

制作者の意図は、必ずしも“空恐ろしさを感じさせること”では無かったとは思うが、意図の有無にかかわらず、チャーチルのヤバさを感じさせてくれたので、高評価。
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