さすらいの用心棒

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

3.6
政界一の嫌われ者・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)が、ヒトラーとの徹底抗戦か、条件付きの講和かを迫られ葛藤する様子を描いた歴史映画。

ノーラン監督の『ダンケルク』を鑑賞した人には見ることを強くオススメしたい。びっくりするほど互いを補完し合った内容になっている。
ジョー・ライト監督は本作のほかにも『つぐない』でダンケルクの浜をワンカット長回しで幻想的に撮影しているが、会議室に差し込む淡い光線や、情報を排した真っ暗な画づくりなど、その美的感覚は本作でも発揮されていて、惚れ惚れとしてしまう。『ハンナ』『PAN ネバーランド、夢のはじまり』のようなひどい映画も撮ってきたライト監督だが、そのダメさ加減を画の美しさで凌駕してしまう手腕は見事。
ただ、本作も例にもれず、なんだかんだで内容に違和感が残る。
チャーチルが地下鉄で国民の声を聞いたことで意を決する終盤のシーンは、そのあとの演説シーンで絶頂にいたる高ぶりを起こさせる意図があったのかも知れないが、あまりに現実からかけ離れているというか、創作的すぎて白けてしまう。『ボヘミアン・ラプソディ』も書いたアンソニー・マクカーテンが本作の脚本を担当しているが、たぶんこの流れが彼の十八番なのだろう。
ドイツ・イタリアと講和を結ぼうとするチェンバレン一派と、ヒトラーに一歩も譲歩しなかったチャーチルを善悪二元論で描いているあたりも、英米からすれば「ヒトラーに屈しなかった連合国」というシンボルが保たれて気持ちがいいだろうが、自分から見るとやはり違和感が残る。それぞれが国のために最善を尽くしていた、という描き方でも充分だったのではないかな。見落としていただけで、そういう風に描かれていたかも知れないけど。
ともかく、ゲイリー・オールドマンのアカデミー賞受賞は素直に
嬉しい。