のりしろ

セザンヌと過ごした時間ののりしろのレビュー・感想・評価

セザンヌと過ごした時間(2016年製作の映画)
3.2
主役セザンヌなら
絶対ピサロ出るでしょ!?
と思って観ました。

1コマだけ出ました。

満足です。
※欲を言えば一緒に戸外制作するシーンとかほしかったです。


19世紀末〜20世期初頭にかけて活躍した印象派の画家たち。
アカデミーの旧態依然とした価値観に反した彼らは、戸外に出てありのままの人、自然、躍動し振動する空気と光をキャンバスに切り出し、そしてついに酷評された「印象」という表現を、見事にイデオロギーとして昇華せしめた。
作中にも先駆者マネをはじめ、モネ、ルノワール、ピサロ、モリゾ、ドガなど、この時期に活躍した巨匠たちの名が連なる。

その中にひとり、
混じりきれないキレッキレのジャックナイフ。
それがセザンヌ。

美術史を読むにつけ、毎回そういうイメージを持っていたのですが、本作は本当にイメージそのままのセザンヌでした。
そうそう、セザンヌってホント、いっつもこんな感じよね〜!という謎のわかりみ。
友達か。

しかし不思議なことに、こういう不器用な人って、ナゼか嫌いになれないのですよね。
愛されたいくせに他人を愛さず、人嫌いの傲慢に見えて実は惨めな自分が一番嫌い。
だからやっぱりどこかで他人との繋がりに救いを求めてる。
「皮肉」というコルセットで自分を締め上げて、息がつまる。
実に人間らしくて愛おしい。
でも友人にはなりたくないタイプです。

そんなセザンヌを支え、彼の才能を信じ続けたゾラの友愛とその喪失が、プロヴァンスの美しい自然描写と、激動の時代と共に描かれています。

古典主義を否定した新進気鋭の作風はアカデミーから拒絶され、苛烈な性格ゆえに画商や画家仲間からも敬遠されるセザンヌ。
そんな彼を、幼少期に貧困と差別から救ってくれた兄として慕い、青春を共に過ごし、晩年に至るまで社会的評価と金銭的補助をし続けたゾラ。

肖像を破り捨てられ、愛した女性を寝取られ、会食の場で度々諍いを起こすセザンヌに、『才能が開花せず絵に取り憑かれて最後には死を選択する画家の物語』を書いて贈ったゾラの心はいかばかりだったろうか。

心を知りたくば読むしかないと思って軽率に「制作」をAmazonでポチったのですが、岩波文庫さんの表紙がセザンヌの「水浴の男たち」じゃないですか。

制作 (上) (岩波文庫) https://www.amazon.co.jp/dp/4003254554/ref=cm_sw_r_tw_api_i_3fArFbFKDG0M8 #Amazon

ゾラが夢見た「自分の書いた小説の表紙をセザンヌにする」が、後世の時代の人々の手により実現したのだなと思うと、感慨深いです。
今更ながらありがとう岩波さん。


個人的に、セザンヌ作品と聞いて思い浮かべるのが、『キューピッドの石膏像』『リンゴの静物』そして『サン・ヴィクトワール山』。

産業化、機械化、近代化が進む時代のうねりの中で、印象派の画家たちがこぞって描いた光り輝く美しい世界。
セザンヌが晩年描き続けたサン・ヴィクトワールの雄大な眺めが、映像とオーバーラップする姿は感動的です。
いつかあの眺めを、この目で実際に見てみたいものですね。
のりしろ

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