回想シーンでご飯3杯いける

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

2.5
「レディプレイヤー1」にスピルバーグらしさを殆ど感じなかった事もあって、同時期に製作されたという本作には、その分、彼の個性が色濃く表れているのではないかと期待していた。観終わって思うのは、確かにスピルバーグっぽさはあるのだけれど、映画監督してというより、1人のアメリカ人としてのスピルバーグらしさである。

本作は、ベトナム戦争時代の最高機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」のスクープを巡る、ワシントンポスト関係者の奮闘を描いた実話物である。ドラマティックな演出は無く、記者を始めとする局内の敏腕達による会話劇がほぼ全てと言って良い。かなり多くの人間が登場し、しかも大半が同じ会社の人間なので、各々の人物像を記憶、把握するのは難しく、とにかくハードルが高い。

しかも、この文書はNYタイムズが先にスクープした物であり、ワシントンポストはそれを追従する立場にある。なのに何故、スピルバーグは本作を「The Post」と題し、ワシントンポストをメインにした作品に仕上げたのか? そして本作が何故トランプ政権に向けたメッセージになり得るのか? そこを理解するには、アメリカ特有の「地方紙」の仕組みや、ワシントンポストとトランプ大統領の関係を知る必要がある。実際僕も、本編鑑賞後にネットで調べ回って、その辺りの背景をようやく把握した次第。

本来このスクープは、文書が隠蔽された結果、多くの米軍人が無駄死にしたという事実に対する告発として大きな意味を持っているはずなのだが、本作ではそこにスポットを当てておらず、あくまで「報道の自由を守るのは報道」という新聞屋としてのプライドや、ワシントンポストのスタンスを描く事に終始している。スピルバーグとしても、映画作りというよりも、個人としてのスタンスやメッセージを表明する意味合いが強い作品なのではないだろうか。主演がメリル・ストリープなのも、演技力だけではなく、彼女が表明している反トランプのスタンス故なのだろう。