回想シーンでご飯3杯いける

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.2
とある事件をきっかけに、大陸を越えた2つの家族の運命が、数十年の年月を経て奇跡的に繋がっていく様子を描いた、とてもドラマティックな作品。ボブ・ディランのアルバム「Time Out Of Mind」がキーワードになっている。

本作がとてもユニークなのが、5編の短編連作として構成され、「人生を語る場合、その人の主観が入ってしまうので、必ずしも真実ではない」というスタンスに基づいて描かれている点。1つのシーンを「言いたかった言葉」と「実際に言った言葉」に分けて2回流したり、別の登場人物が観客として登場したりと、実験的で自覚的な手法を取り入れながら進行していく。クエンティン・タランティーノや伊坂幸太郎の作品にも通じる技巧が冴え渡る。

ただ、こうした手法は、人によってはお節介に感じてしまうのだろう。本国アメリカに於ける評論化筋での評価はかなり低くなっているようだ。ここ10~15年ぐらいは実話映画ブームでもあって、完全なオリジナルである本作のような作品が、あくまで市井の人達を題材に人生の素晴らしさを表現しても、所詮軽く見られてしまうという一面もあるのだろう。いやいや、本作のようなオリジナル脚本こそ、今の映画業界に最も必要なものだと思うのだが。

登場人物の1人アビーが書く卒論のテーマが「信頼できない語り手」になっている点も面白い。登場人物が本作の手法を卒論のテーマにしていると言う、メタ的手法。更にその卒論が教授に酷評されるという下りもあって、本作が公開後に評論家から酷評される事を、予め予見していたようにさえ思える。

総合的に言えば、評論家に評価される作品ではなく、観客に評価される作品なのだと思う。それはFilmarksのスコアを見れば分かる。上映館が少なく、僕も観るのに苦労したが、その甲斐があったと思える、とても素晴らしい作品だ。

(先日のアダム・ドライバーに続いて、こっちはオスカー・アイザック。スターウォーズ組がんばってる)