アニマル泉

アネットのアニマル泉のレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
4.2
カラックスの9年ぶりの新作。カラックスは痛々しい。ダークファンタジーと銘打たれた本作も痛々しかった。
①カラックスは「断片」の作家である。ミュージカルはとても相性が良い。ミュージカルも楽曲が断片化されて突然歌いだすからだ。カラックスも事態は「突然」起きる。全てのショットが物凄い強度だが断片化していて、作品はそれぞれの断片の繋がりでしかない、というのがカラックスだ。
②カラックスはメロドラマである。カラックスが一貫して描くのはまさに「ボーイ・ミーツ・ガール」男と女のメロドラマだ。カラックスのメロドラマは狂気と破滅だ。ヘンリー(アダム・ドライバー)は狂っていく。アン(マリオン・コティヤール)は「死」のイメージを発散させている。クライマックスの大嵐の船の甲板でのヘンリーとアンの狂気のダンスは、狂気を具体化してみせた圧巻の場面である。
③カラックスは「夜」の作家である。本作の白眉はヘンリーとアンが2人乗りするバイクの疾走の移動ショットだ。周りは闇で2人のバイクだけが浮かびあがり、周りが見えないからスピードが出ているのに感じない不思議な安定感があって、まるで浮揚しているかのような美しいショットだ。「汚れた血」のドゥニ・ラヴァンの忘れがたい夜の疾走の移動ショットを思い出す。また、本作に何回か挿入される夜の道をひたすら前進するショットは破滅に向かうスピードが上がるようだ。
④カラックスは「森」の作家である。カラックスによれば今は「緑」に取り憑かれているらしい。「ポーラX」のように本作も「森」が艶かしい。アンが舞台からそのまま森に彷徨う場面は素晴らしい。
⑤カラックスは「水」の作家である。本作も邸宅のプール、海、事件は全て「水」が絡んでいる。
⑥カラックスは「メタ構造」である。前作「ホーリー・モーターズ」と同じく本作も冒頭はカラックス自身から観客への口上で始まる。しかもミュージカル仕立てで登場人物総出の華やかな長回しのオープニングとエンディングだ。これは素晴らしい。本作はヘンリーがコメディアンでアンがオペラ歌手なので劇中劇となっている。
⑦「トンネル」「橋」もカラックスの重要な主題だ。本作では夜のトンネルが頻出する。
⑧色について。ヘンリーの緑、アンの赤、アンからアネットへ継がれる黄色が強調される。
⑨アネットと猿について。本作で驚愕なのはアネットが木の人形であることだ。それを全員が当然の事と受け入れているのがとてもシュールだ。アネットが歌い、空中に浮揚するのに唖然とした。奇跡である。アネット=木人形が起こす奇跡を見せ物にする。キングコングみたいな展開にカラックスの「化物」の主題が重なる。アネットは化物の変種であり、悪魔の子なのかもしれない。カラックスは子供の頃に猿を飼っていて無類の猿好きらしい。本作もアネットのぬいぐるみは猿だし、ヘンリーが猿になったりする。カラックスがドライバーをキャスティングしたのも猿顔が好きだったからとのことだ。本作は他にも様々な動物が挿入される。ラストカットはアネット人形と猿のぬいぐるみだ、
⑩カラックスは本作でOLや多重露光を多用している。

カラックスは痛々しい。希望がないのだ。希望とは「映画の未来」である。
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