えにし

甘き人生のえにしのレビュー・感想・評価

甘き人生(2016年製作の映画)
3.8
新聞の投書に対するマッシモの回答に目頭が熱くなる。「母を失った私は人を愛することもやめた」理由を「生きるため」と答えているが、かなり思うところがあった。距離が近ければ近いほど、深く愛したものほど、失ったときの苦痛が大きくて、こんなにも苦しむのならもういっそ人を愛さない方がよいのではないか、そうすれば傷つくことなく生きていけるのではないか、と考えたことがあった。でもそれは違うと後から気づいた。マッシモは「悲しみは繰り返し襲ってくる だから受け入れるしかない 母を失うという運命を私は受け入れた」と続ける。かたちあるものはいつか必ず壊れる。命あるものはいつか必ず死を迎える。失ったものがどうでもいいものなら失ったことに気づかない。大切なものだから、愛した存在だから、失ったことに気づく。だから、何かを、誰かを愛するということは、その存在を失う覚悟をするということなんだ。そういうわけで「愛することをやめること」を生きていく理由にするのはうしろ向き過ぎると思った。母の死を受け入れたと思っていたことをマッシモは綴ったけれど、受け入れたと思い込んでいただけで、ほんとうは受容できていなかったんだ。だから、真相を知ったことで受け入れることができていなかった自分と訣別して、人を愛する選択を促してくれたエリーザの抱擁に、ぽろぽろ涙がこぼれていた。
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