Inagaquilala

デトロイトのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
3.9
2008年、イラクの地雷除去を題材とした作品「ハート・ロッカー」で、女性としては初めてアカデミー賞監督賞に輝いたキャスリン・ビグロー待望の最新作品。1967年の「デトロイト暴動」を舞台にしたもので、50年目にあたる昨年の8月にアメリカで公開されたが、当初からアカデミー賞の候補として取りざたされていた。しかし、1月23日に発表されたノミネートでは、結局1部門も入らず、日本の配給会社がポスターに刷り込んだ「アカデミー賞最有力作品」という惹句も虚しく響くこととなった。

だからと言って、この作品がつまらないものかと言うと、観賞したかぎりは、なかなか見ごたえのあるしっかりした作品だと言う印象だ。前半は導入部の「アフリカ系アメリカ人の移動」の歴史的背景から入って、「デトロイト暴動」がいかなる経緯で起こったかが、群像劇のかたちを借りて、臨場感あふれた描写で語られていく。後半は、その暴動のなかの象徴的な出来事として、警官による密室暴行事件である「アルジェ・モーテル」の出来事にフォーカスが絞られていく。

上映時間は2時間22分と少々長めではあるが、キャスリン・ビグロー監督の特徴であるバイオレンス・シーンも盛り込まれ、退屈はしない。ただ前半の群像劇を引きずっているせいか、登場人物に対する掘り下げが不十分なため、主人公とされている現場に居合わせたガードマンに感情移入がいまひとつできなかった。それと前半のドキュメンタリータッチと後半の密室ドラマがいまひとつ馴染んでいないようにも思えた。監督の思いが強いためかもしれないが、やや俯瞰的な視点も、とくに後半には欲しい気がした。とはいえ、キャスリン・ビグロー監督が、いつも期待して新作を待つ監督のひとりであることに変わりはない。
Inagaquilala

Inagaquilala