風の旅人

デトロイトの風の旅人のレビュー・感想・評価

デトロイト(2017年製作の映画)
4.0
いきなり1967年のデトロイトに投げ込まれ、我々は暴動に巻き込まれる。
同時期に公開された『スリー・ビルボード』と同じ「怒りは怒りを来す」という展開。
余計な人間ドラマを排除し、ドキュメンタリー・タッチで「アルジェ・モーテル事件」を描く。
『ダンケルク』に近い印象を受けた。
序盤から緊迫感のある映像がつづき、息つく暇もなく、当時を体験させられる。
ミシガン州警察が「人権問題には関わりたくない」と言って立ち去るシーンは、そのまま問いとして突きつけられているようだった(What would you do?)。
今作で描かれるアルジェ・モーテル事件で重要な鍵となるのは玩具の銃である。
事件の発端はカール(ジェイソン・ミッチェル)が遊びで撃った玩具の銃声が、本物と認識されたことにある。
この虚構が真実として伝わる様は、現代に蔓延るフェイク・ニュースにも繋がる。
これは極めて映画的なアイテムだった。
しかも白人警官がフェイクとしての殺人を実際にやってしまうという皮肉。
人間は権力を持つと、簡単に悪に染まる。
暴力警官のクラウス(ウィル・ポールター)を見ていて、私には彼が特別ではなく、「凡庸な悪」(ハンナ・アーレント)の一人に過ぎないように思えた。
確かに人種差別を当たり前に行い、人の生き死にをゲームのように楽しむ姿は常軌を逸している。
しかし彼は想像力の欠如、思考停止状態にあり、自分が悪いことをしている意識も希薄だろう。
だから罪に苛まれることもない
我々の誰もが一歩間違えれば彼のような人間になる危険性がある。
上司のクラウスの言葉を真に受けて、殺人を犯してしまったあの警官のように(私はその瞬間、ナチスのアイヒマンを想起した)。
絶望的な映画だが、中にはまともな警官もおり、ラリー(アルジー・スミス)の歌に僅かながら希望を見出すことができた。
同じ年に『スリー・ビルボード』と『デトロイト』が公開されたことを、我々は重く受け止めなければならない。
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