Inagaquilala

悪と仮面のルールのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

悪と仮面のルール(2017年製作の映画)
3.3
海外でも高い評価を得た芥川賞作家・中村文則の同名サスペンス小説の映像化だ。原作の流れを汲んでか、冒頭からやや哲学問答的な会話劇が展開される。この傾向は、その後も随所に見られ、純文学出身の作家が書いたサスペンス小説というテイストを、本作品のなかにも盛り込んでいる。ミステリーとしての謎解きよりも、特異な状況に置かれた主人公の心情に肉薄しようとした脚本家・黒岩勉の努力の痕跡がところどころに見られる。しかし、それは残念ながら成功しているとは言えない(もしかしたらシリアスものは向いていないかもしれない)。文字で書かれるのと、役者の口を通して話されるのでは、言葉の重みが違ってくるのだ。哲学的な論議がどちらかというと空回りになっている印象は、それに由来しているように思える。

主人公を演じる玉木宏の演技は悪くない。語られる言葉も実に身についている。ただ、彼の存在感が圧倒的なために、対する相手の役者にも大きな負荷がかかってしまう。それに耐え得るのは、唯一、この作品では、主人公の父親役を演じていた村井國夫だったように思う。とくに主人公を突き動かす衝動の源泉であるヒロイン香織の存在感の無さが気になった。とくに主人公の人生を決定づける少女の頃の香織だが、もう少しそれ相応の場面が欲しかった。加えて、大人になった香織との外見的な違和感も感じた。このあたりは、もう少し注意深くキャスティングすべきだ。なにしろ物語の根幹を成す部分でもあるので。

映像化に対する期待度が高かったため、あえて苦言を呈しているが、監督の中村哲平の手腕はなかなかのものだ。アングルといい色調といい、十分に考えられているし、カメラの動きも効果的な表現を生み出している。監督としては、なかなかの力量ありと見た。ただ、この作品では、脚本とのミスマッチが問題だと思う。むしろ自ら脚本も書けるのであれば、それに挑戦してみたほうがいいかもしれない。気になったのは、最後の決めのシーンで、これ見よがしに長く時間をとっていることだ。観客から感動を絞り取ろうとしている浅薄な企みが透けてしまうため、いちばん大事なところが極めて退屈なシーンとなっている。全体のバランスを考えた映像設計をお願いしたい。観客はそれほど単純ではないのだ。
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