otomisan

彼女の人生は間違いじゃないのotomisanのレビュー・感想・評価

4.1
 福島の事を忘れるなとは聞くが実際忘れている。忘れてるせいか福島産も気にならない。水素爆発のあと、放射能の雲が東の洋上から深夜茨城、千葉に巡って一部を降らし埼玉の多くはスキップ、その後北関東からまた福島阿武隈高地などに多くを落していったが、俺の里に降らされたら東電創業以来の株主で来ようと一生忘れまい。パスされたせいか双葉町がこちらに引っ越してきて、金の事やらで陰口を叩くのも何人か知っているが、根っからのそういう手合いが新しいネタに悦んでるという事だ。いらつくが昔ほど骨も丈夫でないから放っておく。
 だったら、忘れるどころか「だから何だ」と突き放すようなデリバリィ・ヘルス業界に***が飛び込んでいくのは何事だろう。①先ず金になる。②楽しくない。③身を切るように働いても身を売りはしない。④ヤバ気な現場でその身を守ってくれるマネージャー高良がいてくれる。⑤なによりこれは自分の自分を元手のビジネスだ。福島の避難者仮設暮らしにないものが東京渋谷にあるのはわかるんだが。
 福島なら①金はやっかみを食らうほど、今を遊んで暮らせるほどある。②だからといって同居の父親の遊びに逃げるのなんてやだろう。③・④元彼が拒む被災の直後、なにがすれ違うのかは俺には分からない。しかし、その頃の***の心に寄り添わなかった「彼」と違うものを高良に感じてるのなら、高良は高良で商売モノには手を出さない等等、掟に沿っただけかもしれない。しかし、身を挺してその商売モノを守る高良に比べ「彼」はあの時***のなにか、なにかから***を守ってくれたろうか?⑤マイ・ビジネスを打ち明けて萎える元彼にあの頃のまま、今度はさらに汚れ物だから寄り添えないのか、***には物足りない男だとしても幾分しかたない。きっと、渋谷に流れ込んだ事への想いなど察しもしてくれないだろうが、では彼ににどう説明できるだろう。そんなやりとりのできない心も言葉も貧しい二人だから多分この状況下うまくいかない。金で回るならただのセールス。ビジネス同様、困難の中、誰かと互いに寄って立つなら相応しい心と表現、言葉が足りないといけない。こんな状況の所為でその事が露わになる。もともと荒み放題東京の渋谷では無用の「身の上話」が福島では単に相手を失って腐る寸前じゃないか。なら***は高良なき後どうする?「彼」にどう言葉を尽くす?
 腐るといえば、あんな父ちゃんが今じゃどこに土地を借りて圃場を畝っているんだろう。やっぱり年の功かも知れない。
 除染の進捗は立派だが元の土地にはどうせ死んでも帰れない。腹が立っても原発に恩がないと言い切れるのか。今その爆発跡地で働く事に一家の全てを賭けて他にどうしようも無いのに、なんの非難に当たるのか。津波や放射能に頼らずとも誰かの死について何の科もないと言い切れない、そう分かっている人間は世間に幾らでも居る。伝来の土地の汚染を恨んで仕事をなげうつようなら百姓の名が泣くだろう。俺がぼんやり食う事がある福島産もあんなところで育ってるのかも知れない。
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