Inagaquilala

あゝ、荒野 後篇のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 後篇(2017年製作の映画)
4.0
前編と後編に分かれていて、あまり時を経ずして公開される作品の場合、概ね後編より前編のほうが良い場合が多い。作品の入り口となる前編に力を入れてつくるからかもしれないが、後編のほうが素晴らしかった例をあまり知らない。しかし、この作品では明らかに後編のほうがよくできていて、完成度も高い。それは余計なエピソードを排して、ふたつのボクジングの試合に向けてフォーカスを絞り、物語を収斂していったからに他ならない。前編にあった「自殺抑止研究会」のエピソードなどはほんの少ししか触れられていないし、説明的な気の抜けたシーンもほとんどない。こうなると前編はただのちょっと長い予告編であったとしか思えない。

後編も新宿新次役の菅田将暉の演技はあいかわらず光っている。ボクシングの所作もかなりリアルだし、なによりもほんとうに相手を殴り殺しそうな目力は強烈な印象を残す。その他、コーチのでんでん、新次の母親役の木村多江、ジムのトレーナーのユースケ・サンタマリア、そして高橋和也、河井青葉などの役者陣もいい演技を披露している。

そして、なによりもボクシングの試合の映像が素晴らしい。迫力はもちろんのこと、観る側にまでパンチの痛さが伝わってくるような臨場感もある。ただ、何箇所か出てくるデモの場面があまりにチープなため、映像の質の落差が大きく、やや興ざめしてしまう。デモ全体を描くのではなく、アップを使うとかやニュース仕立てにするとか少し映像的工夫をして欲しかった。エキストラを使っての撮影なのかもしれないが、あの場面だけ映像が死んでいた。社会的状況を描くなら、なにか他の手もあったはずだ。あのシーンのせいで、せっかくのボクシングの場面が台無しになってしまう。

それと、新次の先輩であるバリカン建二の父親も、少しメイクをつくり過ぎだ。あの外見で、演技のほうも過剰になっていたように感じた。外見をあそこまでつくらずとも、演技さえしっかりしていれば観る側には伝わるはずだ。せっかくボクシングのシーンがリアルに描かれているのに、もったいない。とはいえ、前編と比べれば、完成度ははるかに高い。さすが「二重生活」の岸善幸監督だ。配信などのプロジェクトも絡んでいたためか、全体的に上映時間も長く、無用な「前編・後編」体制になったのかもしれないが、これを1本にまとめたら、素晴らしい傑作になっただろうにと、やや残念な気持ちにもなる。
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