サマセット7

ボヘミアン・ラプソディのサマセット7のレビュー・感想・評価

ボヘミアン・ラプソディ(2018年製作の映画)
4.8
伝説的ロックバンド、クイーンの、リードボーカリスト、フレディ・マーキュリーを主人公とした音楽伝記映画。
フレディを演じるのはラミ・マレック。
監督はクレジット上は「X-men」のブライアン・シンガーだが、途中離脱し最終的には解雇されており、代行監督のデクスター・フレッチャーが完成させた。
音楽プロデューサーとして、クイーンの実際のメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーが参加して、実質的に製作に強く関与したとされる。

クイーンのバンド結成、成功、解散の危機、そして20世紀最大のチャリティライブイベント、ライヴエイドでのパフォーマンスまでを描く。

製作がごたついた割に成功した作品。
批評家の評価は分かれたが、アカデミー賞では4部門を受賞。
興行的にも大ヒットした。

今作の最大の特徴は、終盤が、20分近いライブパフォーマンスの再現に充てられている点にある。

そこに至るまでの110分間は、よくありそうな音楽伝記映画である。
たしかに、ボヘミアンラプソディをはじめとするクイーンの名曲群やその製作エピソードは言うまでもなく、いずれも素晴らしい。
また、キャストの本物再現度の高さもなかなかのもの。
特に見事な美声を見せる主演のラミ・マレックと、激似のブライアン・メイ役グウィリム・リーは、よく見つけてきたものである。
フレディにまつわるエピソードは、どれもドラマチック。
謹厳な父親との確執。セクシュアル・マイノリティとしての葛藤。恋人たちとの複雑な関係。プロデューサーとの対立。酒とドラッグ。バンドメンバーとの友情と喧嘩。そして、エイズの罹患。
とはいえ、多少でもフレディ・マーキュリーを知っている人なら、予想の範囲内のドラマではある。

ラストのライブパフォーマンスは、ほぼ実際のライブを再現したもので、圧巻である。
ラミ・マレックをはじめメンバーは素晴らしいパフォーマンスを見せるし、観客の合唱や熱狂、歓声も大迫力。
もちろん、クイーンの超絶名曲の威力も凄まじい。
ただ、このライブだけを20分観ても、泣くほど感動はすまい。

この映画の凄みは、110分間のドラマが、その後のライブの感動を引き出すための壮大な前振りになっている点にある。
ドラマパートで描かれた苦難や過ち、喜びも悲しみも、全てが、ライブを盛り上げる伏線になっているのである。
ライブパートで披露される曲のパフォーマンスの一つ一つ、観客の歓声や合唱、スタッフの反応に至るまで、全てがこれまでのドラマを思い起こさせる。
特に、4曲の歌詞!!!
一言一言がこれまでのフレディやクイーンの歩みとリンクする。

この「映画の全てがライブパートに奉仕する」という構造のもたらす感動と多幸感は、特筆に値する。
私は初見時、ライブ開始から20分間、ずっと泣いていた。

クイーンの曲に思い入れが強いほど、感動は増すであろう。せめて事前にグレイテストヒッツくらいは予習しておきたい。
青春時代に聴き込んでいようものなら、自分の思い出も重なり、涙の放出量は飛躍的に増大する。
また、ロックフェスやライブに参加して多幸感を実体験したことがあるか否かも、今作の感動を左右する可能性がある。
私はいずれも完全にストライクゾーンで、ノックアウトさせられた。
ここまで感動した音楽映画は記憶にない。

今作のテーマは、もちろん、フレディ・マーキュリーという稀代のアーティストの、あまりに短い半生の輝きを振り返る点にある。
また、音楽やロックミュージックの素晴らしさも当然に描いている。
より普遍的には、「色々大変なことや思い通りにいかないこともあるけれど、それでも人生は素晴らしい」という、人生に対する肯定がテーマと言える。

今作は人種、容姿、あるいはセクシュアリティにおいて他者と異なり、それ故の苦悩や葛藤を抱えたフレディ・マーキュリーの人生を肯定する物語であり、今作自体が多様性を肯定する社会的メッセージと言えるだろう。

実際の事実や時系列と異なる描写が見られるとか、ドラマパートが若干類型的なきらいがあるとか、バンドの苦労に関する書き込みが甘いとか、批判は色々できようが、今作の私に与えてくれた感動の前では、一切がどうでも良いことである。

20世紀最高のロックバンドの、最高の音楽伝記映画。

♫ここにいる俺たち皆が勝者だ。友よ。
俺たちは戦い続ける。最期の時まで。
だから俺たち皆が勝者だ。そう勝者なんだ。
戦わない奴らに構うな。
戦う俺たちこそが、この世界の勝者だ。♫