風の旅人

テルマの風の旅人のレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
4.5
狩をするために、森へと続く氷原を歩く親子。
森で鹿を視界に捉えた父親は猟銃を構える。
しかし次の瞬間、その銃口は娘に向けられる。

冒頭の驚きの展開。
その後、明滅するタイトルロゴが表示される。
テルマ(エリー・ハーボー)は厳格なキリスト教徒の両親に育てられ、抑圧的な生活を送っていた。
キリスト教において鹿は、当初聖獣として扱われていたが、後に悪魔の象徴と見なされるようになる。
ここではテルマと鹿が同一視されている。
そしてそれは後半の「キリストは悪魔」というテルマの台詞とも呼応する。
物語全般を通してキリスト教的なイメージ(カラス、蛇など)が登場し、テルマがそこから解放されるまでが語られる。
ホラーとして宣伝されているが、それは音や光などによる演出面に限られ、むしろテルマという一人の女性が成長していく姿を描いた青春ラブストーリーになっている(弟と父親に対するテルマの仕打ちは、エディプスコンプレックスの表れだろう)。

キリスト教では深酒と同性愛は禁止されている。
テルマは罪の意識に苛まれながらも、自身の欲望に抗えなくなっていく。
しかし作中で科学的世界観と宗教的世界観が対比されていたように、キリスト教は一つのものの見方(物語)に過ぎず、世界はいかようにも解釈可能だ。
テルマの力は今まで男性によって抑圧されてきた女性の可能性であり(だからテルマは男性を殺し、女性を救う)、テルマによって構築される世界を僕は見てみたい。
叔父のラース・フォン・トリアーと違い、鬱的な最後にはならず、清々しさが残った。
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