さすらいの旅人

おじいちゃん、死んじゃったって。のさすらいの旅人のレビュー・感想・評価

3.8
インドでは死体がゴロゴロあるの?
【VOD/Amazon Prime/配信視聴/シネスコサイズ】

田舎の葬式あるある映画と言える。
驚いたのが監督と脚本が30代前半という若さだ。洞察力が半端ないのだ。
面白いのは、登場人物に普通の人間は少なく、逆に危うい人が多い。当然、祖父が死んだのに悲しむ人は少ない。一番悲しむべき祖母は認知症で事情が分からない状態だ。
その祖父の3人の兄妹の内2人の兄は家庭内に事情を抱え仲が悪く、妹は暫く家を離れていたが独身で金持ちだ。映画の状況設定としては面白い。

本作は次男の娘吉子(岸井ゆきの)の目を通して、葬式という人間の死の儀式を考える映画だ。
岸田ゆきのがいい。この女優は幼い顔を持っている子供の様な大人を演じさせたら右に出るものはいない。本作では奔放なベットシーンも演じている。
葬式は結婚式以上に普段顔を合わせない人々が集まる唯一の儀式だ。驚くように人物が変わった人とか、生活が激変した人など様々な人に出会う。
二人の兄は悲しみよりも結婚式みたいな宴会と勘違いしたり、酒の入った勢いで喧嘩する。この二人の言葉の掛け合いが、コメディータッチで暗い中にも笑いを誘う。

岸井ゆきのも良かったが、祖父の長女薫役の水野美紀もいい。都会的に洗練された姿は正に成功者だ。初めての豪華登場シーンには観客は驚くだろう。また、父親の死に唯一涙を流した人物でもある。そして、認知症の母親に寄り添う姿は本来の子供の姿だ。何と優しい人だろうかと思わせる人物である。人間はどんなに変わっても親子の愛情は不変なのだと製作者は訴える。この辺が製作者の狙いではないのかと思う。

葬式と言う暗い儀式を人間賛歌の方向に持っていく製作者の力量には脱帽する。そして、この映画が世界の映画祭で賞賛されるのは、人間はどの世界でも同じ感情を持つ生き物だからだ。