柏エシディシ

リバー・オブ・グラスの柏エシディシのレビュー・感想・評価

リバー・オブ・グラス(1994年製作の映画)
3.0
特集上映「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」にて

ライカートの長編デビュー作。
このタイミングの鑑賞で、"ケリー・ライカートの映画"の文脈を前提として理解していなければ、この映画の面白さに気づけなかったと思う。
1994年製作。ジャームッシュ系譜のアメリカインディ的な作風なれど、その意図やアンチクライマックスな顛末。
その輪郭を把握するには本作単独だと捉え難い。
実際、次の長編を手掛けるのに12年の歳月を要したのは監督当人に取っても、観客側にも必要な時間だった様にも思う。

今となっては、カギカッコ付きの「アメリカ映画」のドラマツルギーや従来の映画の女性像へのアンチテーゼや逸脱。
何処かへ行こうとしても何処へにも行けず、何も起きてない様で豊かな情感が滲み出る、正しくライカートの映画としての本性が遍く刻印されたデビュー作であると明らかに判る。
横滑りしていくカメラが捉える遠いアメリカの筈なのに見知った様な廃れた街の風景。
自分はここに居るはずじゃない。と言わずとも顔と身体に書いてある様なヒロイン。

「個人的なことは政治的なことである」という半世紀前の言葉がまた俄に見直されてきているが、実は心あるクリエイター達は、常にそこからは離れず、アメリカの、そして世界の観客に問い質していたという証左であり、ケリー・ライカートという映画作家の存在がここにきて大きくなったのもまた理由が在る様にも思う。
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