柏エシディシ

πの柏エシディシのレビュー・感想・評価

π(1997年製作の映画)
3.0
A24によるデジタルリマスター版を劇場にて。
大学で専攻していた西洋哲学の講師がユダヤ教やカバラ専門の方で本作にも言及していて、確かその前後に本作を初鑑賞したと記憶している。
都内にあるシナゴーグやモスクに見学に行った事なども思い出す。
映画自体とは関係ないけれど、この時学んだユダヤやトーラー、イスラムとの悲しい関係性と、双方に一定の理性と知性を持って考える姿勢や知識を得られたのは、私個人の大学で得た数少ないが価値ある経験の一つだと思っている。

当時かなり盛り上がっていたデジタルサウンドにのって綴られる病的で不思議な疾走感も孕む映像と物語。
鬱的な題材ながら、観るものに不思議な高揚感を覚えさせるアロノフスキーの才覚が長編デビュー作にして完成しきっている。
映画自体は、塚本晋也の「鉄男」の影響も垣間見えるサイコスリラーだが、かなりユダヤの思想に則った面白い作品。
アロノフスキーはこの手の精神世界や宗教観と無縁でない作品をこの後も作り続けるが、何となくキリスト教的世界観には批判的に感じる。
その原点にこの処女作があるのは興味深い。

2024の視点から観るならば、やはり「オッペンハイマー」とのテーマ的接続性であろう。
「ストップメイキングセンス」のIMAXリマスターといい、この辺りのキュレーション能力にもA24の非凡なセンスを感じる。
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