とっても面白かった! 韓国映画の底力、というか。検事となり、法曹界に足を踏み入れた、元田舎の不良少年の、あれよあれよという間の成り上がりっぷりと、まるでミュージカルかのような音楽と、賑やかな美術装置の使い方など、端々に楽しめる工夫があり、長尺ながら飽きなかった。
まず、冒頭の韓国の現代史をコラージュしたようなタイトルバックからして、なんだかワクワクさせてくれる。ああ、かなりちゃんと時代背景を考えてみるえいがなんだ、と。そして始まるテス少年の少年時代。幸せでも裕福でもなさそうで、妻に去られたダメ親父みたいだけど、それなりにワルをしながら、楽しそう。そこで、権力の何たるかを知り、猛勉強の上、ソウル大学へ、そして司法試験まで突破する。
一度は地道な検事としてスタートしたものの、ふとしたきっかけから、ギラギラとした、セレブ検事たちのシマに入り込み、流されるままに、ボス検事、ガンシクの下に着き、権力を謳歌してゆくが……という物語。
この辺の流れはテンポがよく、時にかなりコミカルにバブリーで、単純に楽しめる。あんなにシャンパンタワーが何度も出てくる映画、珍しい笑笑。
ガンシクを演じるチョン・ウソンの演技が独特で、ちょっと面食らう。美しく優雅に見えて、なんか空虚感が凄くて、何をしても、話しても、まるで人形のようで。これは、虚栄の世界に生きる人物の作り込み方なのかもしれないが、なんだか不思議。
後半から、部下にキレて飛び蹴り食らわしたり、最終的に殺戮に加担したりというところで、やっと感情が見え始め、その怖さが滲み出てくる。同時に、滑稽にもみえて、キャラ的に秀逸。
それに比べてテス君は、喜怒哀楽豊かというか、かなり無邪気。流されるのはいいけど、そこまで気づかないのかよ、と突っ込みを入れたくなる。同郷の悪友で、今は裏世界に生きる、リュ・ジュンヨル演じるドゥイルとの再会と、友情関係は、爽やかだが、テスの行きがかり上の裏切りが酷い。
リュ・ジュンヨル、不思議な俳優。年齢不詳だし、ちょっとのバランスでどちらかといえば三のセンの顔なのに……めちゃくちゃ、カッコいい〜! 特に今作では、その、なんとも不思議なバランスの垢抜け感と男気、それ故の切なさが感じられる。自分を裏切ったテスを助けたり、逃げるのに疲れて破滅に向かう最期は、ほんとうに壮絶(あそこでかかる曲もめちゃくちゃ合ってた)。その自然な熱演ぶりは、今作でいちばんインパクトがあるように思う。ほんとに魅力的な俳優だ。
あらゆる権力者の弱みを握り、証拠を寝かせて、使いどきを考えている検事なんて、正直ぞっとする。でも、思い返せば、日本だって、なぜ今そこ?って、突っ込みたい犯罪やら起訴の情報は案外ある。そういう意味ではあまり荒唐無稽な話ではないのかも。
また、大統領が変わるタイミングでの右往左往や権力争いなどもエンタメとしてかなり面白く、この切れ味、半端ないなと思った次第。日本ではなかなかないな、この味。
脇役に、『アジョシ』の鬼畜ヤクザの兄、キム・ヒウォンや、『タクシー運転手』のチェ・グイファがいたり、テス君の周りの女性たち(妻のニュースキャスター、ガンシクを陥れる女性検事など)の使い方もお飾り的でなくて好感だし。
いやホント、楽しめる映画でした。