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ジュピターズ・ムーンの秀ポンのレビュー・感想・評価

ジュピターズ・ムーン(2017年製作の映画)
2.6
難民少年のクネクネ空中浮遊ショー。

ムーン繋がりで言えば、この映画は宗教的な味付けをして、難民問題にもちょっと触れてみて、ゲロおもんなくした「ペーパームーン」と言う感じだった。

空を飛ぶ少年でかましてくる割には「でしょうね。」って展開しか続いていかない。(「死にかけのお婆ちゃんに奇跡を見せる→気付いたらお婆ちゃんが満足そうに死んでる」のシーンとか思わず笑っちゃった。)

この映画では難民の寄るべなさと天使の寄るべなさを重ねて、それを「宙に浮く」という現象で表現している。つまり少年をこの地に結びつけるつながりは何も無いので少年は宙に浮かぶという理屈。
しかし天使と難民の重ね合わせがうまく行っているとはとても思えなかった。
天使と難民を重ねることで、寄る辺なさに加えて、聖性までもが難民である少年に付与されてしまっているのが原因だと思うんだけど、この問題は後で触れる。

あと致命的に少年のキャラが面白くなかった。
少年は父親を探すって設定を与えられているだけで全然主体的に動かないので観ていてつまらない。風に吹かれる枯れ葉みたいなものだ。
監督は寄るべなさと主体性のなさを混同しているんじゃないか?そしてそのせいで少年の魅力は皆無になっている。
たとえば、医者達のパーティで所在なさげにボーッと立ってる彼の、場面における無意味さったら無かった。それ以前に彼の強かさを見せてくれればギャップで効果的に映ったかもしれないのに。

後半では主人公がだいぶやばい動きしてた。
「人は皆失敗から学ぶものです」
いやいや、医療過誤で殺した患者の遺族にそれは言っちゃダメだろ。

そして前半では「でしょうね」だけで話が進んで行ったんだけど、後半で途端に訳分からんくなった。
遺族に許してもらえなかった主人公は今度は逃げ出した少年の元に行き、なぜか2人は和解。
そして少年は主人公の頭に手を乗せ、主人公は天使に赦される。
何だこの話。
少年が急に主人公と和解した理由が特に描かれないので、これだと父親を喪った少年が、唯一繋がりのある主人公を頼らざるを得なくなった。という利己的判断としてしか理解できない。
なんだけど、明らかに聖的な赦しとして描かれていて、訳がわからなくなる。

このシーンの後からは2人は急激に親子みたいになっていく。

少年を穢れなき存在みたいに描くシーンは本当に気持ち悪かった。「君はメッセージなんだ」
難民を厄介者として見なすことと、天からのメッセージとして見なすことは、勝手なイメージを押し付けると言う点で何も違わない。
少年は結局最後まで人間らしさを奪われて、天使として描かれたままだ。

終盤では、ラザロが少年を襲い、主人公がそれを救い出し、少年が逃げ出すまでの長回しがあるんだけど、既にこの映画のことをクソしょーもねーと思っていたので、マジでどうでも良いなと思いながら見ていた。
なんか最後にみんな悟ったみたいな終わり方してたのが面白かったくらい。

この話は天使を空に返す話なんだけど、少年は天使であるのと同時に難民でもあって、その視点から見ると最後のシーンでは実は何も解決していない。天使としての彼は逃げ出せたのかもしれないけど、難民としての彼はどこにも逃げ出せていない。依然として彼の居場所は無いままだ。
それをなんか感動げな音楽と神秘的な描写で誤魔化して、主人公も何かをやり切ったみたいな顔で死んでるのには反吐が出た。
やはり先に書いた通り、勝手なイメージの押し付けに終始する映画だなという感想。その姿勢は、少年のことを天使だと思い、何も解決していないのに満足げに死んでる主人公に顕著。

これは「少年は人間ではなく天使なのだから、少年の意志や幸せなどどうでもいい」と、ちゃんと意図した上での結論なんだろうか。そう考えれば少年のキャラが全然面白くなかったのにも納得が行く。なぜなら人間は天使には感情移入できないから。
意図した上での結論であって欲しいなと思う。であればこの映画は他の難民の人々の心の支えにする為に(もしくは主人公が自分の罪を赦してもらうために)天使を使い潰すという話として読み取ることができるから。いやー、感動感動。

「もーいいかい?まだでも探しに行くからね?」
あー、はいはい、勝手にやっといてください。

唯一部屋がゆっくり回るシーンは見応えがあった。
それにしても少年が浮いてるときのクネクネした変な手の動きはだいぶ面白かった。
毎回毎回クネクネさせるから、見るときはそこに注目してほしい。マジで馬鹿みたいだから。

(自家撞着を続ける主人公のキャラは結構良かった。)

9/6追記
Amazon Primeで復活していた。それを見てなんだか嬉しくなる程度には、この映画のことが好きだったと気付いた。色々悪口言ってごめん。
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