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2重螺旋の恋人のdm10foreverのレビュー・感想・評価

2重螺旋の恋人(2017年製作の映画)
4.2
【バニシングツイン】

「二重螺旋(らせん)」・・・2本の線が並行な状態で螺旋状になっている構造。それはDNAの基本構造を意味する。

これは大人の映画ですね~。
ビターなチョコレートとブランデーを頂いたような、何とも「夜」の似合う作品です。
これは非常にレビューに困る系の作品です。勿論いい意味で。
映像的にではなく心理的に、どこに視点があるのかわからなくなるんですよね

まさに「双生児」とでも言わんばかりに、この作品を果たしてどの視点から観るのが正解だったんだろうか?という疑問にも似た複雑な感情が湧き上がった。
悪い意味ではない。
この物語に立ち入ろうとすればするほど深みに嵌るかのように先が見えなくなるような錯覚すら覚える。

「果たしてこれは現実なのか?」
「ポールはともかくルイとは一体何者なのか?」
「あの隣人のオバサンは何を隠しているのか?」
「サンドラの話はどこまで本当なのか?」

実は割りと早い段階から伏線は張られていて、最後にどれくらい気が付くのかによって、この作品に対するスタンスや評価に影響が出ているかもしれない。

原因不明の腹痛の原因を探っていく中で、精神的な要因も考えられるというところから精神科医のポールの元を訪れるクロエ。
とにかく何も言わずにただ黙ってクロエから内面を曝け出してくれるのを穏やかに聞いているポール。 次第にクロエもポールには心を開いていく・・・。
しかし、次第に互いを「医師」と「患者」以上に感じ始めていることに気がつき、二人の関係は次のステップへと進む。
同棲を始める二人だが、ちょっとしたこと(ネコのミロに対するポールのちょっとした態度や生活習慣の違い等)が気になるクロエ。
そんなある日、バスの車窓から見知らぬ女性と楽しそうに話をするポールを見かける。
家に帰って問いただすも「今日は忙しくて職場からは出ていないよ」というポール。
しかし、あれはどう見てもポールだった・・・。
どうしても気になったクロエは直接その場所を訪れた。
そこは「ルイ」という人間が経営する精神科医院だった。
彼女は診療予約を取ってルイの診察を受けることにする。
そして当日、クロエの前に現れたのはポールに瓜二つの精神科医ルイだった・・・。

これね、「双子」っていう設定にはなっているけど、本当のところどうだっただろうか?というのが最大の疑問。
というのも、ルイの存在自体を否定するかのようなポイントが点在していて、果たしてルイって本当にいる人間なんですか?という疑問すら沸いてしまう。
つまり彼は『クロエの深層心理が作り上げたモンスター』なんじゃないかということ。

まぁあくまでも仮定なんだけど、そうでも言わないと説明つかない点が結構あったんですよね。
何も言っていないのに自分の内面まで全てルイが見透かしていたり、ポールに連れられていったお医者さんのパーティで、ポールの大学時代を知る医師たちに、同じ大学で学んだというルイについて聞いてみたが(誰だい?それは)という薄い反応が返ってきたり、ルイを銃で撃ったあと、何のお咎めもなく普通に病院で治療を受けて普通に退院して普通に暮らしてたり・・・。
根本的にルイは精神科医であったはずなのに、クロエとの診察では精神科医らしいことは殆どしてないんですよね。
そんな感じの「微妙な矛盾点」なんかも、今になって思えば・・・そうなのかな~と。


じゃあ、何故そんなモンスターを作り出してしまったのか?っていうところです。
実はここの部分に『バニシングツイン』の要素を絡めたことで、よく言えば「話に深みが生まれ」、穿った見方をすれば「わからん」にも繋がってしまったんですね。

結局、腹痛の元凶はクロエのお腹にいた「バニシングツインの残骸」であり、それがクロエの精神にまで影響を与えていたというところかなと思うんですが、そう考えると、「腹痛」「双子」「遺伝子」に引っ掛けた伏線ってかなり張られていて、それに気がついたときは「ハッ」となるし、『三毛猫の遺伝子』のくだりなんかも(なるほどね~)となったし、序盤で腹痛の原因を調べるための腹部エコー検査を拒否したのも、後になって「あれ?」となる。

そしてその腹痛もルイといる時は何故か発動しないという点も「徐々にルイに惹かれていくクロエ」の精神状態の表れと思ってたけど、現実に腹痛の原因としていすわっていた「片割れ」の存在が明らかになってからは、「それが彼女を支配して、クロエすら気がつかない深層心理の中の欲望を表に出した」のかな?とも思いました。

これは難しい映画です。
でも久しぶりに頭使って心地よい疲労感の残る映画でもありましたね。
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