けまろう

ラブレスのけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

ラブレス(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『ラブレス』鑑賞。自分を愛し過ぎる現代のトレンドに警鐘を鳴らす衝撃作。私たちはインターネットやSNSの発達によって世界や価値観が狭まっている。舞台はロシア。離婚協議中のボリスとジェーニャ。息子アレクセイの処遇を巡って対立した夜の翌日、アレクセイは突如失踪する。二人は新しい相手と過ごし、失踪に気づいたのは失踪してから二日後だった。息子を押し付け合う姿は正に愛情の欠如した姿だが、民間の捜索隊の協力を得ながら必死に息子を捜索する姿に一瞬愛の回帰を感じる。結局、二人の元に息子は戻らず、二人はそれぞれ別の人生を歩むことに。そこにはアレクセイの面影はなく、ただ離婚前と同じように愛の不足した二人の姿があるだけだった。アレクセイの失踪の意味もなく、ただ彼が生きた証として、木に引っ掛けられた紐がはためくのみ。大掛かりな捜索シーンと対比される壮絶なラストシーンだ。アレクセイを最も必死に捜索したのが警察でも両親でもなく民間の捜索隊だったというのが切なく胸に刺さる。
とにかく、ボリスとジェーニャは自分のこと以外に関心がない。その徹底ぶりが恐ろしく残酷で私たちに警鐘を鳴らす。それは、セルフィーを撮る女性たちやSNSにのめり込む姿(そのせいでアレクセイの変化に気づけなかった)、他人事のように流れる国際紛争や内戦、マヤの終末論などで暗示される。自分が幸せでさえあれば、二人にとって世界などどうなってもいいのだ。一見ネグレクトのようなテーマだが、それとは一線を画する社会派映画。水や鏡の描写など、ロシア的な表現もなお良い。
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