純

バルバラ ~セーヌの黒いバラ~の純のレビュー・感想・評価

4.3
品があって、妖しく光るワインのような映画だった。その熟成された香りに包まれて、妖艶な彼女の瞳はわたしたちをぼんやりさせる。バルバラの心の揺らぎが、上品で美しい言葉と声で奏でられる。「キスを贈るわ 心の奥から 指先から」。口づけを贈られたゆっくりとした時間が、現実と夢を華麗に混ぜ合わせて、不思議な誰かになっていく。

わたしの最後の春。あなたは英雄ヘラクレスじゃないけれど、素敵なことをしてくれた。とろけそうな囁き声だった。なんて美しい発音なんだろうと思う。言葉はいらない、と言いながら何度も歌うバルバラ。彼女を演じる女優。皆知っている心だと思った。言えないけど歌えるし、わからないけど見える、そんな誰かとの絆やつながりを鮮やかに思い出す、素敵な歌の数々が愛しかった。ああ、わたしたちの音楽だと抱きしめられる。彼女の唇から零れ落ちるのは、間違いなく、わたしたちの春や夜だったから。

愛を捧ぐ歌は、なんて広い世界なんだろうと思う。どこまでも伸びていく、どこまでもわたしを連れて行く、どこまでも続いていく。わたしの愛。あなたへの愛。あてのない愛。今夜こんなにも愛を全身に浴びて眠るあなたの夢が、いつまでもやさしい光を帯びていますように。そんな春に包まれるあなたの横顔が、世界でいちばんすきだ。

黒いベールに包まれた彼女が歌う、真っ白でやわらかい、ふたりきりのうつくしい季節。
純