純

カモン カモンの純のレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
5.0
大人になると、意味以上のものを見つけられないと、何処かで聞いたような気がする。だけど、忘れたくないと思った日々に意味のある名前がつけられなくても、わたしはその時間を抱きしめたい。何度も、何度も。

きみが笑ってるのか泣いてるのか、ちゃんと知って、ちゃんと対応したいなんて言われたら、絶対に泣いてしまうとおもった。怖がらせてごめんね、なんて言われなくてもそう思ってくれていることはわかっていたし、いつもはあんなに泣いたりしないのに恥ずかしい、と涙が溢れたとき、恥ずかしくないよと言ってくれることも、心のどこかで期待してたかもしれなかった。傷ついた?と聞かれたら、怖がらずに「うん」と答えたい。いつだって、ほんとうは答えたいと思ってる。

前を歩いて行ってしまうそのひとに一言ごめんねと言いたくて、走って横に並んだことはある?何も言えないくらい不器用に近づいて、小さな勇気をこの世界に見せたことを覚えてる?ぼくを守ってほしいと手を握ったときに、ごめんねを返されたことは?どうして冗談みたいに言っちゃうんだろうって寂しそうに笑う誰かを見たことは?

「今この時も忘れちゃう?」「忘れないよ」
「忘れるって言ったよ」「君が忘れちゃうってこと」「ぼくも忘れないよ」「忘れても大丈夫、僕が思い出させてあげるよ」

インタビューという対話が持つ力のようなもののことをおもう。ミランダ・ジュライの『あなたを選んでくれるもの』を思い出す。
選んでいると思いながら本当は選んでもらっているような気持ちになること、怖がられているのではなく怖がらせていると気づいた瞬間のこと。わたしたちひとりひとりの声には、たしかな力があると強く感じる。だから、ジェシーがジョニーを何度も呼ぶ場面が、そのときの切実さが、わたしの胸を愛でいっぱいにする。一緒に残して行きたい時間の数だけ、大切なひとの名前を呼びたい。何度も、何度も。
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