純

ベルファストの純のレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
5.0
生活を愛するって、きっとこういうこと。明るい空の下で笑い声をあげて。安心と温もりに抱きしめられて。ベルファストがこんなに美しい場所だって、内緒の景色を見せてくれてありがとう。あなたたちのたったひとつのふるさとは、本当に世界一の街だと思う。

ああ、今まで、本当に怖かったに違いない。愛しい日々に、突然大きな音や熱さや痛みが乱暴をした。たくさんの大事なものが失われてしまうより前にせめて、たよりなく光る涙が、人々の尖った心を慰められたらよかったのに…。紛争で未完成のままになった「あなたとわたし」の物語は、今も子どもの姿のまま、一緒に月を目指しているのかな。

寂しい日々があった。だから忘れないで。たくさんのドラゴンを倒した夕方を。劇場で出会う、鮮やかな世界の色を。愛するひとの手を握って嬉しそうなおじいちゃんを。昔話が楽しそうな昼間を。そうそう、映画館で家族揃って空を飛んだり、歌を口ずさんだりもした。そう、この街のことは、こういうふうに覚えていたい。大好きな音楽も、軽やかなステップも。あの午後も全部、確かにあのとき、ここにあったんだもの。ちゃんと抱きしめていたい。本当のことは、思ったよりもずっと儚いものだから。

算数のテストでおじいちゃん直伝のズルをして、あの子の隣に座れるように頑張った日々を忘れない。ひとの話をしっかりと聴くことは、実は難しいんだと知った日を忘れない。優しくフェアで、お互いに尊敬しながら付き合っていくことを教えてくれた、お父さんの瞳を忘れない。この街のことを胸に大事に仕舞っていた少年がいたから、過去と未来を守る、慈しみの映画が出来上がった。正しさは意外と曖昧で、やさしさは明確な輪郭を持っているみたいだね。そして、あなたはその縁を、あの頃と同じ温度でなぞっていく。

おばあちゃんが行けなかったシャングリラに、きっとあの子はたどり着く。何度だって振り返ればいい。心はいつまでもあの場所に恋焦がれているから、どんな夜でもへっちゃらなんだ。ほら、みんな大好きなアーケードに飛んで帰ってゆくよ。

For the ones who stayed, for the ones who left, and for all the ones who were lost.
純