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女王陛下のお気に入りのAZのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.8
権力がもたらす人間関係を皮肉的に描いた作品。
歴史物は捉え方が難しい。どれだけ史実に沿ったものなのか気になったが、Wikipediaにまとめてあって助かった。ただ、同性愛に関する話が特に引っかかったのだけどその辺りはわからず。アン自身は同性愛者だったみたいだが。

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オリヴィア・コールマンの感情の動きによる表情の機微が素晴らしかった。エマ・ストーンは今まであまり意識していなかったがそもそもコメディ映画を経験している人なので、演技に笑いのユーモアがあって面白い。そんなエマの演技とレイチェル・ワイズの演技の対比が良かった。一見するとサラは冷徹だが国のことを考えているし、アンに対し愛情を注いでいる。それに対しアビゲイルは純粋で優しい性格に見えるが腹黒く、自分の人生を取り戻すことだけを考えている。自分の生き方や信念をかけた戦い。それに利用される女王のアン。

いかに彼女に気に入られるかを通して、愛、欲望、裏切りが描かれる。権力が絡んでくると今までの関係は維持するのが難しくなっていく。アンとサラは幼い頃からの親友であり、恋仲であるように描かれていたが、アンに力が与えられたことで、その関係の真実がわからなくなっていく。

この3人の関係の背景には戦争というものがあるわけだが、その辺りはほぼ描かれず(会議はたびたび描かれるが)、それによって3人の心理状況や思惑、それによって表出する微妙な表情の変化に注視できた。

また、空間を大きく捉えるカメラワークが印象的。とにかく左右によく動く。環境をより見せることで時代感を強く感じさせつつ、コメディー要素の入った今作にマッチした手法。衣装にもこだわりを感じ見ているだけで楽しい。

イギリスの作品は曇りの印象を勝手に持っているのだが(エドガー・ライト監督やガイ・リッチー監督作品など)、今作も基本的に曇りで薄暗く、イギリス感が全体から漂っていた。このような作品は時代の空気感、色合いや匂いを感じさせることが重要に思う。そのあたりしっかり作り込まれていてさすが。

うさぎはアンの子供の死、虚しさや悲しみ、後悔というニュアンスが含まれている。最終的にオーバーラップするうさぎは永遠と続くアン女王の心の苦しみを表現したものだろう。

権力がもたらす悲劇を普遍的且つ、ユーモアを持って描かれた作品だった。

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ふと思ったが、アメリカ人がイギリス訛りの英語を喋るのはどれだけ難しいのかということ。日本人が方言を真似するのと似た感覚なのだろうか。

ヨルゴス・ランティモス監督は常に皮肉的に世界を描く。このひねくれた感じが面白く、さまざまな感情をもたらしてくれる。想像力を刺激してくれる監督。
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