Inagaquilala

素敵なダイナマイトスキャンダルのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.6
「南瓜とマヨネーズ」の冨永昌敬監督が映像化を熱望して実現した作品だということだ。冨永監督は前作の「南瓜とマヨネーズ」もそうだったが、猥雑さのなかにリアルな人間関係を描き出すのが得意技の監督とみたが、この作品でもそれは健在で、まさにこの作品の主人公である末井昭氏の歩んできた軌跡が見事にトレースされている。ほとんど同時代で末井氏の活躍はメディアを通して知っていたので、ある種の懐かしさをもって、この2時間18分と少し長い作品を観ていた。

ただ、ある種の作品性を持たせようとしているのか、何度も回想場面として登場するダイナマイトで心中を図ったという主人公の母親のシーンは、やや煩くも感じた。とくに自分にとっては、主人公が歩いてきた道をトレースしてくれるだけでも作品として成り立っていたのだが、こうも母親の存在と結びつけるのならば、もう少し母親と主人公のエピソードは深く切り込む必要があったのではないかと感じた。そこはたぶんに実在のモデルということもあり、ドラマ的な虚構を交えた構築が難しかったのかもしれないが、やはり記号的に母親が使われているという思いはぬぐいきれなかった。

異能の編集者、末井昭氏の自伝に近い作品だが、再現される当時のシーンはなかなか興味深いものがある。登場人物たちを演じる俳優陣も主人公の柄本佑はじめ、みななかなかの適役で、とくに前田敦子のノスタルジアを感じさせる存在は新たな発見だった。ラストクレジットでも流れる、末井氏自身と母親役の尾野真千子がデュエットでうたう主題歌「山の音」がかなり心に響く。作詞作曲は菊地成孔氏、これは文句なしで素晴らしい。
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