ちろる

世界で一番ゴッホを描いた男のちろるのレビュー・感想・評価

3.7
中国の湖南省出身のチャオ・シャオヨンは、1996年大芬に出稼ぎにやって来る。有名画家の複製画を作ることが産業として成り立っていた大芬で、彼は、初めてゴッホの絵画と出会い、独学で油絵の描き方を勉強し、およそ20年の間工房でゴッホの複製画を描き続けてきた。
しかし、彼は生まれて一度もゴッホの絵を見たことがない。

彼の住む村でのでの制作風景は決して恵まれてるとは言えず、その膨大な数の絵を、家族総出で狭い部屋で寝る間も惜しんで描いている。
驚くのはシャオヨンならまだしも親族が彼の指導のもと、同じ複製画を油絵で描けること。
そりゃきっと寸分の狂いもなくとはいかないだろうが、絵画が好きかどうかも分からない家族がこのように生産し続けることに驚愕します。

そんなシャオヨンの仕事にはいくつかの太客が居て、その中の1人がアムステルダムの画商。
「いつか遊びに来てくれ」と言われてんだって得意げに話すシャオヨンの気持ちの中に、ゴッホの故郷であるオランダのアムステルダムで認められたのだという自慢のような気持ちもあったのかもしれません。
そしてついに、念願のアムステルダムに行くチャンスが訪れる。
自分たちの絵が一体どんなところで売られているのだろうかとワクワクしてその太客に会いに行く。
しかしそこは、思っていたのとは少し違う、お土産屋さんでの販売で、しかも値段が元値の10倍で販売されていて・・
アムステルダムの太客に悪気がないのは見て取れます。
自分達から呼んでいるわけだし、、しかししかし、シャオヨンからしたら(くそーもっと高くして販売すりゃあよかったー)と後悔の念がある。
あのときの空気感が独特で、あれ以降の彼らの取引がどうなったのか、気になります。

そしてこの後にシャオヨンは目的となる、ゴッホの本当の絵を観ることに。

彼は呆然とします。自分が描いていたのはなんだったのか?模写にもならないと。

シャオヨンは独学で絵と向き合ってきたからこそ、ゴッホがなぜ素晴らしいのかを知り、自分の無力さに打ちひしがれる。

自分の絵が小綺麗なアートサロンで販売されていないことに愕然としたのも束の間、、、自分達の絵は所詮模写もどきであり、スーベニアショップで大量販売されるに等しいものだという事を知り、彼の中で何か新しい感情が揺さぶられたに違いない。

彼のスタイルが今後も変わらなかったとしても、『生活のため』に動かし続けていた筆をゴッホへの『尊敬の念』で筆を動かす職人になることは間違いないのだから・・・

いずれにせよ画面の中で始終彼のひたむきで純粋な魂に心が揺さぶられるこちらのドキュメンタリー。絵が好きな人はもちろんそうでない人にも心の琴線触れる作品となっているはずです。
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