Inagaquilala

累 かさねのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.9
キスをすると顔が入れ替わるというギミックを使った作品。原作は松浦だるまのコミックだが、登場人物を整理し、なおかつドラマを強調する展開へとつくり直し、なかなかコンパクトにまとめられた作品となっている。天才的な演技力を持つが、顔に大きな傷があるため、舞台へ立てずにいる累と、美しい顔を持ちながらも、役者としての才能を持ち合わせていないニナが、顔を入れ替え、舞台女優としてそその存在を示していくのが、とりあえず前半のストーリー。しかし、当然、この入れ替わりには問題が生じ、後半は、この累とニナの激しい葛藤が中心となっていく。

葛藤は、もちろん累とニナの間に生じるのだが、それだけではなく、それぞれの内面にわだかまる心情にもスポットを当て、単なる入れ替わり劇から、人間の美醜をめぐる心理劇にも発展していく。このあたり原作の力なのか、それとも脚本の深さなのか、判断はつきかねるのだが、作品的にはかなりの厚みを与えている。そして、美貌を持ちながらも演技力のないニナという女優を、見事に演じた土屋太鳳の演技が、これに拍車をかける。これまで、ただ元気な女優さんという印象だった彼女の、演技者としてのすぐれた一面を見た感じがした。

監督は「キサラギ」の佐藤祐市、脚本は売れっ子の黒岩勉。実は、作品的には、同時期に公開される「HIBIKI 響」に期待を寄せていたのだが、こちらの「累 るい」のほうが、かなり良かった。物語の鍵を握る不思議な男を浅野忠信、累を茅根京子が演じているが、このあたり、演技陣の差が、作品の出来に大きく影響しているように思えた。やはり、映像のマジックでは乗り越えられない、役者が果たす役割も重要なのだ。
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