塔の上のカバンツェル

トップガン マーヴェリックの塔の上のカバンツェルのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

スパホのスーパークルーズに脳を破壊され、アフターバーナーに身を震わせ、空母上の甲板員よろしくランチシグナルを決めて映画館を射出される、そんな大作。

世の中には安直に製作される続編映画がゴマンとあるが、本作は正に作り手が、今やる意義をきちんと考えた上で送り出した、やる意義の説得力に納得できる素晴らしい一品だと思う。

作品の製作権を手放さなかったトムが作ろうと決意するに値する脚本なのは間違いなかった。

グースを死なせてしまった事実に後悔し続けたマーベリックに対して、父を死なせてしまったこと、パイロットへの道を一度は挫こうとしたマーベリックへの怨みを捨てきれないルースター。
過去に捕われた彼らに対して、アイスマンが優しく投げかけてくれる"水に流せ"。
戦場で命を救い、命を救われた関係になったマーベリックとルースターにとって、数十年の月日を経て、前を向いて歩き出していく彼らの姿。
前作品の置き土産を安易に回収ではなく、物語の軸にしている真摯さに、気持ちがいい作品だった。


あと、主人公を英雄的に死なせなかったのも好意を持てる。
確かに、ルースターを庇ってマーベリックが死んでいたとしたらそれはそれで美しいと思ってはしまう。
でもそれってルースターに新たな十字架を背負わせることにもなるわけで。
ちゃんとマーベリックを着地させ、本作最大の見せ場である、老骨に鞭打ったF-14トムキャットとトムの大盤振る舞いを用意したのは素晴らしいのひと言。
序盤パートでダークスター墜落から生還したトムのコミカルさを、終盤の生還に回収していく手際の良さである。
そりゃそうだよな、トムクルーズ殺しても死ななそうだもん。

本作はIMAXでまず、観るべき作品です。
異論は空爆します。

冒頭のミニッツ級への既視感ありつつ、世代交代した艦載機たちの美しい着艦美。
パラマウントの背景にかかるアンセムも前作オマージュとこの作品も二番煎じなのか?とミスリードをまずはさせるが、お話が進むにつれ、本作のテーマが老いと若さ、つまりローテク機と最新鋭の対立軸で語られつつ、実のところ、老いてもいるがトムクルーズはトムクルーズだ、論にも着陸する映画なんだなと。

物語的によくある構図として、第一線で活躍してきたヨボヨボの老兵が、新兵たちを前に無双するジャンルものだろ?ってなり兼ねないところを年寄りの背伸びに見えない今のトムクルーズ、界隈でいうところのジャッキー化したトム。

同じ体を張るでも、ジャッキーが等身大の肉弾連撃アクションスタントの申し子なら、最新鋭の映像技術と物量と規模で身を投げ出すトムクルーズが演じるからこその、謎の納得力。
老いとか気にしてねぇなこの人感。

この老いと最新鋭という構図は、戦闘機アクションにもちゃんと落とし込まれてるのが偉い!
前作ではアメリカの技術の翠を集めたF-14がMig28"(役のf-5)を叩きのめしたわけだけど、今回はそもそも最新鋭の第五世代Su-57へ第四世代機F/A-18E/Fで挑まないといけないという構図。
圧倒的優位性で戦えた時代から、他国に圧倒されつつあるという21世紀アメリカ海軍の姿をここに見るわけで(太平洋に目を向けながら)。

さらにローテクのF-14が老骨に油を刺して飛び立っちゃうんだから。

Su-57がプガチョフコブラ!!!!を華麗に決めロシア戦闘機の優美さと、第5世代機の機動性を見せつける一方で、
F-14も可変翼で食らいつく。

前時代的な遺物が、最新鋭に文字通り経験と技術で互角に渡り合っていくのである。

F-14の座席についたマーベリックが、操縦桿を握る際に手袋を外して、自分の素肌で古き相棒を思い出そうとするの、細かい描写だけども非常に丁寧な演出。

劇中で何度もそのニヤニヤした目つきをやめろと、笑われてしまうトム。
困った顔で、それでも口角を上げ続ける彼は、自分の今の立ち位置に自覚的でありつつ、それでもトムクルーズを演じることを辞めようとはしない。

思えば、恋人の家の2階の窓から追い出されるように転げ落ちて無様に着地するトム、満身創痍でエマージェンシーバリケードネットで空母に緊急着陸するF-14トムキャット。

昔みたいにスマートにカッコつけて着陸はできなくて、ヨボヨボになって不細工に着陸する姿に、今のトムクルーズのカッコよさとは、を見た気がします。



【極超音速航空機ダークスター】

本作のファンタジー要素の一つ。
SR-71ブラックバードの後継機、SR-72を開発中のロッキードマーチン全面協力の下で、デザインしたとのこと。
先祖のブラックバードの意匠を感じる黒光のカッコよさ。


【何故本作はF/A-18E/Fなのか?】

劇中なんでF-35じゃ駄目だったのかを聞き逃した気がする。
敵地侵入で一撃離脱だったらそれこそF-35の出番な気がするんだけど、ウェポンベイに爆弾が収まらないし、ラックに吊り下げたらステルス性の意味ないしで、対地攻撃任務向けのスパホってことかね?

まぁアメリカ海軍の主力だしねで片付くか。

F型の複座型の映画的意味もちゃんとあってここも良かった。

字幕がF-18表記なのは、一般観客には優しいのでよいと思います。
F/A-18E/Fって毎回言ってて嬉しいのはミリオタだけやし。

そんなF/A-18E/Fスーパーホーネット君、リアルでは議会に追加購入を迫られ、海軍に心底嫌がられる始末ではあるが、今作のスパホのエチエチさにやられた議会に更にもうプッシュされ、折れちゃう海軍の未来が見える…。
それは、それ、これは、これ、で流石にスパホの増産はいらない。


ただ、個人的には元々好きな戦闘機だったけど、鑑賞前は役不足感というか、F-14の画になるカッコよさに比べてなんか薄味なんだよなぁ…とか思ってたけど、爆音IMAXで観るホーネットは最高だわ。


【謎のならず者国家】

北国っぽいからロシアではありつつ、F-14装備はイランを想起させる謎国家。

前作ではインド洋の謎国家が"Mig28"(を演じるf-5)装備で敵役を演じたわけだが、
本作ではSu-57に大幅アップデート!

でも、F-14に撃墜されたSu-57のパイロットは一生後ろ指刺されるんだろうな。

なんでF-14保有してんのというツッコミには、イラン空軍先生がいらっしゃるので、そこは全く気になりませんでした。

あとMIAしてる最中のトムを舐め回すよう
ハントするハインドの猛禽ぷりも怖カッコよす。

:


前作はミリタリ作品に青春モノを足した独特な個性の映画でもあったわけだけど、本作マーベリックは何かの形容ではなく、
続編としてきちんと内省している映画だからこその確実性があると。
あの彼らの続きを語るなら?をちゃんと考えている映画なわけで。
この点を志して安直に続編を作ってしまわないというのは案外難しい。

そもそもトム以外の役者なら凡庸な好戦的映画の一つに埋もれていた可能性の大きいとも思うし、
トムクルーズだからこそ、続編でここまで面白かった!と思えるエンタメ作品に仕上がったんだな、と。


もう一度、IMAX映画館に足を運ぼうと思う。




【22.06.05追記】

敵基地攻撃でF/A-18が選ばれるのは、GPSジャミングがかかるからか。
誘導弾の類が目視での投下になるからああいう作戦というわけか。

マーベリックが被ってるヘルメット、グースの遺品だったのに今更気づく。


【参考資料】
ロッキードマーチン公式サイト
https://lockheedmartin.com/topgun

「知られざる空母の秘密」
SBクリエイティブ株式会社出版

「戦闘機の航空管制」
SBクリエイティブ株式会社出版