しゆ

トップガン マーヴェリックのしゆのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

しっかり面白い。オープニングでDanger Zoneにのせて飛行甲板の離陸をとらえる前作と同じカットで、冒頭5秒にしてこれは間違いないと確信した。このレビュー作成時に公開4日目という点でトム・クルーズのファンや元から好意的な意見が多いであろうことを加味しても、9938件(投稿時22468件)のレビューで平均スコア4.6という驚異の高評価を得ているのも頷ける。
間隔を開けての続編は、一作目が大作でも期待外れに終わるケースが多く、個人的には本作にも不安があった。さらに前作の監督が亡くなるという大きな逆風もあったけど、トムが自ら続編の製作権を買い取り、キャストとプロデューサー双方の立場から長く大きく尽力したことで、むしろ34年が経った今だからこその出会いの騒がしいバーやビーチバレーからビーチアメフトなど前作へのリスペクトを各所に散りばめつつ、大筋はトップガンの教官としてマーヴェリック本人とグースの息子ルースターとの関係性、そして次世代への継承を描いていくという前作からの往年のファンにも新規ファンも満足できる見事な傑作に仕上がった。また、コロナ禍で劇場の大スクリーンにこだわって死守したのもこの感動体験に繋がったのは間違いない。(これは後述のトムの映画愛にも関連する)
本作には、変化しつつある時流の中で''トップガンの続編としての位置付け''と''一人のハリウッド俳優としての想い''の2つの大きな意味合いがある。
前者は冒頭で少し語られているように、現在は民間人がイメージするようなドッグファイトの終焉や、戦闘機の運用を人間から無人ドローンの搭乗へと移り変わる真っ只中にあること。もしかしたらエリートパイロットを養成するトップガン自体の在り方も変化していくのかもしれない。ただ、その中でも変わらない友情や愛、絆の物語は時代が変わっても確かにそこにあって、その不変(普遍)性と新世代への継承を表現していたように思う。
後者は、昨今VFX技術の発展によって実演主義の撮影が特殊化しつつある中で、今やトムの代名詞である超絶スタントをここでも余すことなく披露したこと。これまでのキャリアで培ってきた『ミッション・インポッシブル』シリーズ等の超絶アクションを、この傾向にあるハリウッドであえて行うことはトムの俳優としての集大成や映画への意地、愛をぶつけた一本とも捉えられる。
「できれば教官の仕事を」と前作の終盤で言っていたように指導員の立場からトップガンを引っ張る形に(遠くから指示を出すタイプじゃなく現地に向かったけど)。前作は人間的に成長してスッキリとした終わり方だったので、34年越し(延期含めると36年)に続編の機会を設けてまで最終目標をどう位置付けるのか気になっていたけど、ドラマパートはもちろん、作戦遂行もハラハラと安心のオンパレードで、まさに映画館で観るためのような構成だった。作戦は方針や成功パターンが劇中で繰り返し示されていて、アクション映画では混乱しがちな今登場人物が何のために何をやってるのかを明確にしつつ、視聴者とともに雄大な大地を翔ける親切さも幅広い世代に受け入れられる理由の一つだと思う。
アイスマンが少将として再登場した際にタイピングを用いた会話が印象的だった。これは加齢の演出かと思ってたら、配役のヴァル・キルマーは喉頭がんと診断されていたとのこと。それをハンデと決めつけずに、彼の昔の声と息子ジャックの声をAIで合成して劇中の声を表現し、彼の勇姿を讃える葬式にまで展開することで改めて友人の死を乗り越え、さらに成長したマーヴェリックの糧にする発想へと切り替えた制作陣の技量にあっぱれ。
前作『トップガン』でもヴァル・キルマーの出演交渉にはかなり苦戦を強いられていたようで、それでも彼の存在なしに続編を作ることはできないというトムの想いをパンフレットで知って胸が熱くなった。
初めに本作を鑑賞してから第一作目を観ることであの教官マーヴェリックの尖ってた若い頃は…みたいな楽しみ方もアリ。34年という歳月の積み重ねをものともしない、いやむしろ現代だからこそ実現したハリウッド大作映画でした。
いつかトム・クルーズも俳優業引退を表明する日が来るんだろうか。
でも今日じゃない。
しゆ

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