とがり

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のとがりのレビュー・感想・評価

3.8
フロリダ、世界中から観光客が訪れる夢の国ディズニーワールド。
そのすぐ横のモーテルで、その日暮らしを余儀なくされるシングルマザーのヘイリーと娘ムーニーの物語。

ヘイリーの置かれた境遇はほぼ詰みの状態で、あがけどもあがけども正解の選択肢はない。
貧困の蟻地獄とは裏腹に、この地は何もかもがカラフルで、夢のようで、モーテルの名前さえ「マジック・キャッスル」とか「フューチャー・ランド」とかおとぎ話の世界だ。
それがまた阿片のように、目の前の深刻な現実を忘れさせる。
そして訪れる、ある意味当然の帰結。

この母娘に嫌悪感を抱き、感情移入できず、自業自得と罵ることができる人こそが、この母娘を救済できる社会的立場にいる。
この母娘に憎悪の石を投げる人々こそが、終盤のあのヘイリーの叫びを聞くべきなのだ。
しかし実際は両階層間の対立が深まる一方で、ウィレム・デフォー演じる管理人のような人が溝を埋めようと奔走し、その割りを食う。
この構図がますます残酷である。

だから、モーテルのオーナーとなってヘイリーらに罵声を浴びせるも良し、モーテルの住人となって正解を選べない理不尽を前に一時の"真夏の魔法"にかかるも良し、映画の感想は人それぞれだけど、嫌悪感で思考停止してほしくはない。
だけど両者は分かり合えないから賛否両論が巻き起こるのも仕方ない。

おいおい、チケット買ったときはこんなに観客の社会観を浮き彫りにされるなんて思ってなかったぞ。
鑑賞後のモヤモヤを反芻してやっと凄さが分かる、そんな映画。
とがり

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