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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスのらのレビュー・感想・評価

3.6
フレデリック・ワイズマンの作品らしく長尺だが、いざ実際に観てみるとその理由が分かる。ニューヨーク公共図書館の担おうとする役割と、それに伴う活動内容があまりに幅広いのだ。具体的には、書籍の貸し借りなどの通常の図書館業務に加え、司書による優秀過ぎるレファレンスサービス、リチャード・ドーキンス、パティ・スミス、エルヴィス・コステロ、タナハシ・コーツなど錚々たる顔ぶれを迎えたトーク・イベント、各種学習講座や読書会から、シニア向けのダンス教室、インターネットの接続に必要な機器の貸し出し、就職支援、住居手配などである。知の格差・情報の格差の解消を目指すことに留まらない"あらゆる格差の解消"を目指す、"ここに来れば何とかなるかもしれない"場所としての図書館。そして、決して少なくない時間が"図書館のあり方"を決める幹部たちの会議のシーンに割かれているのも興味深い。いかに予算を確保するか、ベストセラーの本か推薦図書か、紙の本か電子書籍か、ホームレスの対応をどうするかなど、真剣な議論が交わされる。
 
ナレーションやテロップによる説明もインタビューもなく、ただ"その場で何が行われているか"を映し出す簡潔な映像ながら、かなりはっきりとした政治的な意図を感じる。ワイズマン自身が「トランプ大統領が反対するすべての価値観を体現している」「この映画は暗示的に、トランプが異議を唱えるすべてを表すこととなった」と語ることからも明らかなように、この映画でニューヨーク公共図書館は、単に先進的な取り組みを行う場としてだけではなく、どんな人種や階層の人間でも幅広い用途に利用できる"民主主義の理想的な場"として象徴的に掲げられている。
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