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ポルトのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ポルト(2016年製作の映画)
3.7
 なだらかな坂道の真ん中に佇む雰囲気の良いレストラン、日中に雨が降ったらしく、石畳の上は僅かな湿り気を帯びている。ジェイク(アントン・イェルチン)は広い石畳の車道を横断するように目的の店に向かう。青いネオン管で形成された「Ceuta」の文字、その両脇にはそれぞれ「CAFE」と「RESTAURANT」と書いてある。今作は夜の街の静けさが一際印象的な映画である。オリヴェイラの映画でも印象的なポルトガル北部に位置するリスボンに次ぐ第二の都市「ポルト」、ジェイクはこの街でひっそりと暮らすアメリカ人である。外交官の父の影響で、アメリカからリスボンに渡って来た彼は家族との折り合いの悪さから、この地に引っ越して来た。友人もいないジェイクには唯一、愛犬だけが心を許せるかけがえのない存在だった。ある夜、ふらっと入った「Ceuta」の店内で、ジェイクは理想の女マティ(ルシー・ルーカス)に出会う。店の喧騒の中、2人の距離は10m以上離れているにも関わらず、ジェイクとマティの出会いは折り目正しい視線の交差で始まる。胸元の開いたブラウス、左手にタバコを挟みながら、いかにも自信ありげな表情で男の求愛を待ち構えるマティは、女性としての圧倒的な魅力を讃えている。別の場面では、BOX席の両側に座った男女が互いに見つめ合いながら、お互いの年齢を聞く。マティが32歳だと聞いたジェイクは少しはにかむような表情を見せる。2人の視線は1mほどの距離で優しく見つめ合う。

 ジム・ジャームッシュがエグゼクティブ・プロデューサーにクレジットされたブラジルの新鋭の処女作は、ポルトガルという異国の地で、偶然に任せるままアメリカ人とフランス人を引き合わせる。あの夜を信じたい男と、未来を忘れたい女は、2人とも1夜の思い出に囚われている。まるでジャームッシュの『パターソン』のような恋人同士の同じベッドでの目覚めの場面は冒頭に配置され、「1.ジェイク」「2.マティ」「3.ジェイク&マティ」とナンバリングされた物語は、ジャームッシュからの強い影響が感じられる。過去と現在、未来が交差する物語を、ゲイブ・クリンガーと撮影のワイアット・ガーフィールドは、35mm、16mm、スーパー8と3つの異なる質感のキャメラで表現する。映画の中の時間は過去から現在、そして未来へと流れて行かず、男と女の断片的な記憶がぶつ切りにされた状態でバラバラに配置される。スタンダード・サイズで撮られた映像パートは、2人の夢の中の記憶を表現している。石の採掘場でジェイクに向けられたマティの視線、重い石をリヤカーで運ぶ男の荒い息遣い、フランスから越して来た殺風景な部屋で2人は体を重ね、情熱的なキスをする。十分に考慮され切り取られた一つ一つのフレーム、周辺描写を極端まで削ぎ落とした感情の揺らぎ、それを3つのレイヤーの異なるキャメラで切り取る実験的な手法は、現代の映画というよりはむしろ、オリヴェイラ作品や、アラン・レネの『ミュリエル』やルイ・マルの『恋人たち』に質感が近い。アントン・イェルチンに改めて心から哀悼の意を表したい。