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戦争と平和のryo0587のレビュー・感想・評価

戦争と平和(1965年製作の映画)
3.5
原作未読。

2日に分けて鑑賞したのは正解だった。

第一部

ピエールが語り手でアンドレイが主人公。貴族の虚飾に満ちた生活に辟易する厭世的なアンドレイが戦場で生死さ迷う経験、妻の出産と死別を通して他者に心を開こう価値観を新たとするまで。

ピエールは不幸な結婚。
今でいうイケてない、陰キャ。コンプレックス・劣等感から間男に決闘を挑み、なんか勝ってしまうが後悔したりとある意味一番人間臭い。

相手のドローホフにも母と妹を労わる面があったりで人間の複雑性を伝えるエピソード。

ナレーションやヴォイスオーバーを多用しトルストイの文章をなるべくそのまま活かそうとしているのかな。演出は演劇とか文学寄り。

『大きな結果を残すのは常に簡潔な思想』『結婚は年を経ってからからでよい。何もかもやり尽くした後で。でないとその過ちは取り返しがつかない』『31歳で人生は終わらない〜』『あなたのような退屈な夫なら普通は浮気よ』などなど、さすが文学史に残る名作なだけに人生に通ずる名文句が多い。

第二部
若きナターシャを主人公として、歴史の大きなうねりの中でも連綿と続く(貴族の)日常・いつの時代も変わらない愛についての考証。『平和』のパート
特に冒頭の舞踏会場面でのナターシャがあまりにも美しく瑞々しい。絵画のようで息を呑んでしまった。

ナターシャの若さゆえの溌剌とした魅力や情熱・自信、一方で人生経験の浅さ故の軽率さがそのまま若い世代の思考や価値観の象徴か。

アンドレイから間男に心変わりする過程はちょっと急というか描写不足か。駈落ちの件も分かりづらかった。

『自分が今の自分のような自分でなく、より完璧であったら〜』というナターシャへのピエールの告白が切ない。

また一部から二部にかけ繰り返し言及される貴族の豪奢な生活の虚飾・虚無への批判、それに呼応するいずれ来る避けられない死にどう向き合うかという命題が、どう人生を生きるべきくという本作のテーマである気がする。

明日の三部以降も楽しみ

第三部
『人間の理性とすべての本性に反する戦争が、再び起きたのである』

全編戦争シーンの異質は構成。
CGなしの大スペクタクルに約80分圧倒され放しで時が経つのが早かった。
人、馬、火薬のどれを取っても信じられないスケール。どのように指揮してんだろう。戦場を空から眺める空撮はさながら人間の業を見下ろす神の視点のよう。

ピエールは戦争を現場で直視
アンドレイは戦場で戦う理由に疑問を抱き、生を希求し、恋敵との再会
ナポレオンは民衆から支持されたが為に自身の行為を自ら否定できず、結果として人間性や善を否定しなければならなかったというのがまた。。

第四部

冬将軍の到来まで堪えたロシアの忍耐力の勝利。
アンドレイとピエールのそれぞれのナターシャへの愛。
少年が銃殺されるショットは残酷さと美しさが同居

アンドレイの父の死やナターシャの弟のエピソード、ピエールとカラターエフの交流などは少々急ぎ足で詰め込みすぎた感がありもったいない。


総論

絵画的な壮麗なショット、ダイナミックなカメラワーク、規模の大きさに圧倒される戦闘シーンにはただ感動。また原作と同じように写実主義を貫徹するためか、画面に起こり得るなるべくありのままの現象をそのまま提示しようとしており(そのため自然光だけのためか真っ暗で何をしているかわからなかったり、爆煙が画面を覆い隠してしまうショットがあっても厭わない)、この原作への映画化の姿勢として正しい。

文学史上に屹立する巨大な原作の映画化に恥じない風格を帯びており、原作にも挑戦さたいと思わせてくれるという意味では映画化の意義も達成している。

一方で四部に分けてかつ様々な要素を捨象してなお余りある膨大な原作の要素量に泣かされている印象もあり、少なくないシーンが舌足らずになっている(解説読んでそういう意味なのね、となるシーン)のは惜しい。
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