柊

ニッポン国 vs 泉南石綿村の柊のレビュー・感想・評価

ニッポン国 vs 泉南石綿村(2017年製作の映画)
4.0
まずは、長年アスベストの被害で苦しんでいた人々の無念が世に出たと言う点と、この裁判が世界のアスベスト問題のさきがけとして一つの指針になった事が何よりだったと思う。
原告団は判決後にそれぞれ思う事はあるようだったが、弁護団としては最高の結果を引き出せたと言う満足感の微妙な違和感。この監督だからこそ映し得た空気を感じさせた。常識的には大円団で終わっていいのに、刺激的な展開を望む監督の容赦ないカメラが映さなくても問題ない映像までとらえていた。それをあえて編集しない監督の意味する所は…これまでの監督の作品を鑑みると多分監督はアスベスト被害者に寄り添っているわけでは決してないのだと思い至る。

特に、二部に至ってその傾向は強くなる。初めはドキドキワクワク映画出演の原告団がだんだんカメラ慣れしてきて、監督が期待するようなエキセントリックな行動に走る。ここまでカメラ入れるのか?と疑問に思うシーンも本人達が了解していれば監督の思う壺。原告団代表ではない方が、官邸前で焼身自殺でもすれば…と言うくだりは監督が喉から手が出るほど望んだ行動ではないかと勘ぐりたくなる。役人の不誠実さや腰抜けは想定内、でもだからと言って暴言で相手を罵倒するのは耐えられない。でもきっと中にいると慣れてきてしまう。トランス状態かと思う。極端な対立構造を映し出す事でVS感を煽り、国の無能さを強調するようなやり方はフェアじゃない。
ところどころいらない質問も敢えてしていたように感じる。特にことさら在日や被差別部落問題を取り込もうとする所は、これは必要ないんじゃないかと疑問を呈した原告が正しいと思う。監督に乗せられてしまう原告代表もいたけど…ただいろいろ苦労してご主人が亡くなったのを機会に夜間中学へ行って字を習ったといった話は凄く良かった。これだけで別のドキュメンタリーが作れる。必要ないのに夜間中学の先生のインタビューまで入れたり脱線にしか見えないけど、おばあさんの嬉しそうな顔で帳消し。
一部が良心的でありながら、二部の暴走推進がどこか踊らされているように見えて…この監督に言っても仕方がないがドキュメンタリーと言えども編集は大事だと思う。
そしてもちろん勝利判決に弁護団の力は不可欠だけど、原告団の熱意があっての勝利だと強く思う。報われて本当に良かった。後半もうどこから見ても市原悦子にしか見えないくらいな原告のおばさんが目に焼き付いている。
柊