わたがし

ミスミソウのわたがしのレビュー・感想・評価

ミスミソウ(2017年製作の映画)
5.0
 原作は読んでないんだけど、話が進めば進むほど本当に救いも何もない話で、世に存在するどんなにエグい話でも多少の救いというものはあるはずで、でも本当にこの映画に救いないな、ヤバいな、って最後の最後まで観て思った。観る側が無理やりにでも救いを想像補完していくしかない。
 内藤瑛亮の、あの「暴力をちゃんと暴力と捉えて真正面から描く」気味の悪さは今回も凄く健全で、バイオレンスの爽快感とか全然ない。人間という命の宿った神聖な塊があっという間に真っ赤な血液噴水と共にただの肉片になって飛び散ってしまう、暴力の儚さとか根本的な嫌悪感。内藤作品はそれらが毎回ツルッと軽く描かれるのが本当に気分悪くなる時もあったんだけど、今作はどっしり真正面から描かれている。内藤作品で1番嫌いな、あの変なテケテケテケテケテケみたいな電子音BGMもない。安心して暴力の虚無感に浸れる。
 こういう、暴力に対して何らかの確かなスタンスがある上で撮られた暴力映画を観る度に「ああ、自分は本当に暴力に興味がないんだな」と思わされる。恐らく、自分の中での暴力ってハリウッド大作におけるカーチェイスとかとあんまり変わらない。でも「ミスミソウ」の暴力は絶対にカーチェイスではないし、登場人物誰も幸せにしない。
 そんなことを考えると、今の日本のエンタメ業界に蔓延している暴力描写ってどちら側の意図の上に成立しているものが多いんだろうか。暴力の本質として?それともカーチェイスとかマイケル・ベイ映画における爆発的な?そして受け手はどういう感覚でその「暴力」を噛み締めているのだろう。そんなことを思いながらテレビで警察官銃殺事件のニュースを眺める土曜日の夜だった。
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