Inagaquilala

OVER DRIVEのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

OVER DRIVE(2018年製作の映画)
3.9
日本で自動車レースを扱った作品は、あまり記憶がない。たぶん、それは実際の自動車レースの映像に比べて、どうしても作品中のレース描写が迫力に欠けるからにちがいないと、つねづね思っていた。この作品は、F1などのフォーミュラーカーのレースではなく、実際のプロトタイプの車を基にして走る、ラリーレースを舞台にしたものだ。公道を使用したレースだけに、かなり迫力を出すのは難しいと考えていたのだが、それは見事に杞憂に終わった。近年、格段に進歩してきた撮影機材と本物と少しも変わらないCG映像で、これまでにない迫真のレース映像を作品のなかに表現している。

とくに首都高速を使ったレースの場面など、もちろん実際にロケしたわけはないのだが、もうほとんど実写に近いリアルな映像を実現している。これらのレース映像を観るだけでも、この作品の価値はあるように思える。監督の羽住英一郎の自動車レースへの造詣と「リアル」を生み出す演出力は半端ではないような気がする。そのぶん、兄弟の確執をめぐる物語にはやや物足りないものも感じる。そもそも、ある女性のために兄弟の確執が生まれ、その思いが、彼らがレースを闘う理由となっているところなど、かなりありがちなドラマ展開で、もう少しストーリー的にひねりも欲しい。

とはいえ、この兄弟を演じる東出昌大と新田真剣佑の演技が思いのほか素晴らしいため、いささか安易なドラマ展開をカバーしている。とくにメインのカーレーサーを演じる新田真剣佑が、ほとんど初めての主役を張るということで、かなり気持ちの入った演技を展開しており、あらためて青春作品の若者役から脱して、将来への可能性も感じた。ナレーションを加えて、年間のチャンピオン争いを軸に展開していくスピーディーな展開も作品を盛り上げている。ただ必要以上に回想シーンが多いのは気になった。せっかくの小気味良い展開が、若干、滞るような感じもしたからだ。とはいえ、ひさしぶりに自動車レースを舞台にした、観応えある作品に出合った気がする。
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