t0mori

007/ノー・タイム・トゥ・ダイのt0moriのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

『TRUE DETECTIVE』のキャリー・J・フクナガ監督に決まった時にかなり期待値が上がってしまった上に、コロナで延期に次ぐ延期……劇場予告を観過ぎて、既に観終わったような気にすらなっていた本作。いざ蓋を開けてみれば……少々期待し過ぎてしまったかもしれない。

前半半分、いや、4分の3くらいまでは良かった。端的に言えば、クライマックスだけが台無しにしてる感。そこまでは引っかかる所はあっても、見せ方も上手いし、感情も動きも見えやすいから集中して観ていられた。

導入、マテーラでの高低差を利用したアクションは、予告で何度となく観せられてもやはり興奮したし、DB5の馬鹿っぽい装備も007らしくて良い。

キューバでのアナ・デ・アルマスとのアクションも楽しく美しく眼福だった。フィリックスの死も老境の域にあるボンドに取って、長く付き合いのあった仲間の死という、エモーショナルな展開には胸が熱くなったし、悲しみと同時に彼自身にもひたひたと近寄る、死の足音を感じさせた。

Qの家に押しかけて、初めての客が来るって言うのもキュートだった。ノーミという新たな00ナンバーの存在も、このご時世の展開としては上手いと思った。ま、でも、7をボンドに戻すのは良いとして、ノーミは何番になるんだ?という観客の素朴な疑問にも、さりげなく応えて欲しかったけど。

ブロフェルドが死ぬ辺りは、スワンの翻意で結果的にボンドがやらかすという、あまり工夫のない展開でちょっと読め過ぎな感じもあったけれど、その後のスワンの実家行ってそこから逃げ出した後の、森の中での地形を利用した逃走劇まではとても良かった。

ただ、サフィンの秘密基地に行ってからが、ディテールも雑な上に展開もグダグダ。特にクライマックスの階段登りながらの銃撃戦は、完全に主人公には弾当たりませんモードで、ろくに避けも工夫もしない肉弾戦が無茶過ぎる。サフィンが人質を解放するくだりも説得力に乏しいし、戻って来るのもその前の取引相手?とやらとの展開による理由もない。唐突に戻って来て、ボンドと一瞬タイマンしたと思ったら、すぐ終了。
尺オーバーで入れきれなかったんだろうけど、あれだけ時間あったんだから、クライマックスの展開くらい、何とかならなかったのか?とか思った。

それによりボンドは最期を迎えるわけだが、付け焼き刃感が拭えない。中盤の展開をどこか端折ってでも、クライマックスのサフィン戦には時間を割くべきだったんじゃないだろうか……。
愛する者を守る事を選ぶ、というラストに不満はない。そこに至る過程を周到にやって欲しかった。残念。

色々と不満もあるけど、ダニエル・クレイグにはお疲れ様を言いたい。刻々と移り変わる時代の価値観の中、現代の007を体現して苦悩し、走り続けたのは見事だった。

【追記】一つ書き忘れた。
サフィンを演じたラミ・マレックは良かったと思う。元々目力の強い役者さんだけど、その強さを前面に押し出すかのような抑制の効いた演技で、凄みが感じられた。本文にも書いた終盤の展開と、設定的な弱さが残念だった。
t0mori

t0mori