Inagaquilala

去年の冬、きみと別れのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

去年の冬、きみと別れ(2018年製作の映画)
4.0
ちょっと面食らうのは、この作品が「第二章」から始まることだ。なぜそこから始まるかは、観ていての楽しみなのだが、これに続く「第三章」の後に、「序章」と「第一章」が置かれていく。つまり短的に言えば、物語は途中から始まるのだ。このような形式をとったのは、原作となった中村文則の小説が、映像化困難の叙述ミステリーのかたちをとっていたからだ。

大石哲也の脚本は、そのハードルの高い原作を見事に映像化作品へと変身させており、加えて監督の瀧本智行の演出もメリハリの効いた印象深いものとなっている。中村文則の小説の映像化は、少し前に「悪と仮面のルール」があり、少々消化不良の印象だったが、こちらの作品では、かなり原作に手を加え、1本芯の通った作品となっている。

原作と異なるのは、物語の中心が編集者ではなく、フリーライターになっている点だ。つまり原作の語り手が、ここでは主人公となって、物語を動かしていく。よって岩田剛典扮する事件を追うライターの耶雲恭介は、途中でがらりと役柄が入れ替わる。その変化を岩田がきっちりと演じている。宣伝物の惹句である「すべての人がこの罠にハマる」は少々オーバーかもしれないが、「第三章」から「序章」へと移る、折り返し点がこの作品の見どころでもある。

多くを語ってしまうと興ざめになってしまうので、このくらいにしておくが、とにかく、とてもよくできていた原作小説を、さらに練り上げて、観る者を唸らせる展開にしたのは、やはり脚本と演出の勝利かもしれない。不可解な焼死事件の容疑者となるカメラマン役の斎藤工の演技も光っていた。ひとしぶりに邦画でミステリー作品の傑作を観たかもしれない。とにかく、とりあえずご覧になることをお勧めしたい。よくできています。
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