ardant

去年の冬、きみと別れのardantのレビュー・感想・評価

去年の冬、きみと別れ(2018年製作の映画)
4.5
ただ、ただ、面白かった。次の展開がどうなるのか、待ち遠しくてたまらない感情を久しぶりに、映画をみて感じた。

本作品と1月公開の『悪と仮面のルール』を観て、原作者、中村文則の世界が、ある程度わかったような気がする。両作品、監督は違うが、画面から感じるもの、それは、荘厳なおどろおどろしさだった。昔観た横溝正史原作の作品に感じたものに似ている。『悪と仮面のルール』ではそのおどろおどろしさに作品自体が腰砕けになってしまったが、本作では最後までその重さに耐えた。

もう一つ、気づいたのは出演者達の生活感のなさである。出演者達の日常を描くことを極力排除することによりもたされたもの、それが、主題への集中度を増す効果になっていた。

映画の中盤、この人間関係は出来すぎだと思ったが、それが、この映画の肝だったことを後で知る。画面に「第二章」というタイトルが現れた時、私は、あれ、「第一章」はどこに行ったのだろう、見逃したのかなと思ってしまった。ちゃんと、「第一章」は用意されていた。
この展開といい、題名の意味といい、脚本家と原作者両者の創造力の豊かさに、感服するしかなかった。
斎藤工は不気味さを漂わせ、北村一輝も彼本来の持ち味以上のものを出していた(北村一輝が只の編集者で終わるわけがない)。そして、主演の岩田剛典に、先日観た『坂道のアポロン』の知念侑李と共通するものを感じた。
いわゆるアイドル系の主人公と言われる彼らに、演技は上手でないにしても、映画に向かう真摯な姿勢を。だから、おそらく、彼らは、これからいい役者になっていくような気がしてうれしかった。

最近、旧いテレビドラマをみることに、はまっている。テレビドラマは、視聴者にわかりやすくするために、重要な部分を何回も何回も繰り返す。それに対して、時間に制限のある映画ではそうはいかない。見逃すと話がまったくわからなくなる可能性を持っている。だから観る側に緊張感が生まれる。

本作品を観ることは、そんな心地よい緊張感に包まれた幸せな二時間を満喫することだった。
ardant

ardant