教授

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜の教授のレビュー・感想・評価

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公開からそれなりに経ってしまったのだが、引き続き韓国映画づいてるので、という流れで引き続き鑑賞。
多種多様に面白い映画があるなぁと毎度思うのだが、本作も面白かった。

数年前に観た「KCIA 南山の部長たち」や最近観た「ソウルの春」。あるいはイ・チャンドン監督作品や「サニー」などでも言及されるような「光州事件」を一風変わった視点で描いていてその点もさすが。

「政治」に大して関心がない「いち庶民」である主人公のマンソプ(ソン・ガンホ)の視点で、当時の韓国社会の「実情」から見えてくる光州事件。
生活苦から、ドイツ人ジャーナリストのピーター(トーマス・クレッチマン)をソウルから光州へ乗せていく、その中で政治の状況を思い知るという展開はシンプルで見事な脚本。

もちろん、光州の住民たちがこれ見よがしに誰もが善人である点や、ステレオタイプ的に国家、あるいは軍隊側が悪役に仕立てられているという二極化された描写は偏りがあるとは指摘されるところだろうとは思う。
それについてもピーターが回している16mmのフィルムカメラにはマイクが付いていなかったり(ひょっとしたら音声は必要ないのかもしれないが…)、何よりカメラのモーター音がまるでしないのは細かいことだが、ディテールをリアルに仕上げることには注視されていない。

ただ歴史を「概要」としてしか知らない自分にとっては、描写される「光州事件」の様は、非武装の市民に対しての虐殺へとエスカレートしていくわけで、その「何も知らなかった」マンソプの視点と、重なって知ることができる。

また終盤のソウルへの帰還に際して、援護に登場するタクシーと軍部のカーチェイスの感動時な展開は「映画的飛躍」としてポイントを押さえていて素晴らしい。
ただ、本作を評価する時に漏れ聞く「タクシー軍団」と言うには台数が少なく、迫力満点とは言い難い。

個人的には、あまり盛り上がる気配のない地点から、展開を積み上げていって「歴史の一端」をシリアスにまとめ上げ、且つ、最後に明かされる「実話」であるということの軽いショックも含めて、面白かった、
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