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霊的ボリシェヴィキのmのレビュー・感想・評価

霊的ボリシェヴィキ(2017年製作の映画)
4.8
「人間が一番怖いって事じゃないですか」と分かったように紋切り型の事を言う奴が速攻で物理的にシメられる事に顕著なように、人の道理など通じない『何か』=彼岸の論理こそが恐ろしい、という高橋洋監督の信念と狂熱が全編ギンギンに漲っていて滅茶苦茶愉しい。
『何』が死刑囚を最後に暴れさせたのか、『何』が山を登っていたのか、あの数珠は『何』だったのか、自分を睨んでいた母であって母でない人は『何』だったのか、母の部屋にあった人形は『何』だったのか、結局入れ替わった彼女は『何』だったのか、何もかも道理が通じず理由も正体も分からないからこそ興味深いし怖い。
そして登場人物達が物語るそれらの怪異も映像化されず役者達の語りでしか表現されない事によって、観客の想像力の余地がさらに大幅に拡がる。『視えない』はずの迫り来る彼岸の存在が、登場人物達と観客の心の中には確かに『視える』。
結局見えるもの・分かる事より見えないもの・分からない事の方が怖いのだ。しかしそこにこそ人は惹きつけられる、という真理がこの映画にはある。想像を膨らませる愉しさ。

だって結局何故レーニンでボリシェヴィキ党歌なのかも分からないし。でもそこに何やら訳の分からない狂った論理があるようで惹かれる。訳の分からない熱があるからこそ面白い。

登場人物達が各々の体験を語っていく百物語形式はこうして語りだけで映画にするのは単調になりがちで難しいが、俳優陣の演技力&撮影(ドリーの使い方が巧い)・照明・音響の技術力の高さ、そして彼岸の論理の恐ろしさを狂信する高橋洋監督の演出力と狂信力の合わせ技で、百物語の異様な緊張感を最後まで飽きさせずに見事に持続させた。
お婆さんや霊能者の濃い芝居もひたすらリアリティ無視で映画の異常感を高めている。

高橋洋の脚本には常々感嘆していたが監督作ではなかなかそこまでハマれず、今回ようやく心底愉しめて嬉しい。


彼岸の世界に触れた韓英恵が猛烈に美しく、そしてやはり巧い。
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