みきちゃ

困った時のロジャー・ストーンのみきちゃのレビュー・感想・評価

4.2
2019年1月25日未明EST、トランプ陣営元顧問ロジャー・ストーン氏逮捕というニュースが飛び込んできて心の中でひっくり返った。ロシア疑惑など含め7つの罪状で満を持しまくっての起訴。数時間後、25万ドルの保釈金を即納したストーンが、詰めかけた報道陣の前に現れてまたひっくり返った。登場スタイルはもちろん、彼が敬愛してやまないニクソン君を彷彿とさせるいつもの万歳ピースサイン。
 
ストーン逮捕時のLIVEニュース報道。銃で武装したFBIが闇夜に紛れて忍び足でストーン邸を取り囲んでおり、おじいちゃん1人相手にどんな奇襲だよーというものものしさ。タイミングよく全てをカメラにおさめることが出来たCNNの準備の良さ。いつか制作されるであろうトランプ政権関連の映画を見据えてのパフォーマンスに違いないと決め込んで、この一部始終を目に焼き付けようと頑張った。
 
トランプ氏をアメリカ合衆国大統領の座につけた一番の立役者とも言われるストーン。1972年にニクソン陣営がまだ学生だったストーンの有能さに目をつけてスカウトしてからというもの、とにかく米国の歴史的瞬間に必ず居合わせてきた(もしくは居合わせたと思われるよう情報操作をしてきた)人物。策略家で、政治をショービズと言い切り、道徳心を弱さと切り捨て、選挙戦においてはどんな汚い手を使ってでも民意を操り、黒い評判は権力と有能さの証と解釈して喜ぶストーンは、“目的を達成する”という点においては最高に有能な必殺ロビイストであり、絶対に敵に回したくない。2011-2016年のストーンの5年間を追っかけたこのドキュメンタリーフィルムは、妙な快活さと、ゲスの極みからくる不快さを同時に伝えてきて、興味深い。
 
気になったストーンの掟:
一つ、無名よりも悪名高くあれ。
一つ、徹底攻勢。
一つ、退屈は失敗より悪い。
一つ、すべてはハッタリ。
 
初めてストーンのタトゥー入りの背中の写真を見たときは三流週刊誌が作ったおふざけコラージュなのかなって思ってたけどどうやらまごうことなきマジ彫りであるとやっと腹落ち。ストーンという人はニクソン君を本気で愛していて、若干19歳の自分がウォーターゲート事件の公聴会に呼ばれたことも、ニクソン陣営の大物政治家名がいならぶ賄賂疑惑リストに名を連ねたことも、彼にとっては大変に名誉な勲章。家にもオフィスにも、ニクソン君のありとあらゆる写真、ポスター、グッズが所狭しと並べられており、否が応でもニクソン愛が伝わってくる。ストーンにとってのニクソン君は「苦境に陥っても必ず立ち上がる、絶対に諦めない不屈の精神の持ち主」であり、そのニクソンメンタルをもってして政治・ロビイスト活動に邁進してきたストーンはとにかくタフ。
 
“政治”に腐敗した黒いイメージがついたのは、ストーン達が始めたなんでもありのゲスいロビー活動のせいだと言う人もいる。そう言われるストーンの、直近のヒラリーvsトランプの大統領選での言い分はあっけらかんとしたもので、「私はニクソン時代からずっと政治をこの目で見てきた。皆さんもご存じの通り政治の世界は腐ってる!だからこそ救世主は政界に染まっていないトランプしかいないんだ!」などと述べ、トランプ陣営の参謀として戦った。

根も葉もないオバマ出生疑惑をトランプにうたわせて、強い黒人差別の姿勢を打ち出し、政治に明るくない白人中流ワーキングクラスの心をガッチリ掴んだ。彼らが「今まで黒人大統領の下で我慢してきて、今度は自分達労働者の気持ちなどわかるはずもなさげな政界畑どっぷりのビッチのヒラリーだなんてもう付き合いきれーん!」という方向に不満を大爆発させるよう誘導されたという分析にはそれなり納得してる。彼らをターゲットにしようと決めたことは吉と出る。

迎えたあの選挙当日。大統領選で自分が投票した政治家が負けたからってあんなにも涙するアメリカ国民を観たことは無かった。大勢が泣いていた。たくさんのセレブや有名人が悲しみと失望を表明し、米国在住のマイノリティの中には「とりあえずカナダにでも逃げたほうがいいだろうか…」と真剣に考える者も多くて、ほんと、なんて日だったんだろう。ヒラリーvsトランプの大統領選は史上最低レベルの汚い泥仕合と言われ、このドキュメンタリーを見ると、あの何もかもが全部ストーンのせいと言い切っても良いようにすら思えてくる。そう思われることはストーンにとっては最大級の賛辞なので、彼は負けることがない。トランプが強く打ち出した「アメリカ・ファースト」のメッセージ。これはニクソン君が1974年の大統領辞任スピーチで言ったセリフで、トランプにも同じことを言わせたのはストーンなんだろう。ストーンにとってこんなエモい瞬間はなかったんじゃないかなあ。
 
“I’m an agent provocateur”
冒頭でストーンは自らをこう定義した。わざわざソフィスティケートに品も良く聞こえるフランス語で言っちゃって。勝つためならなんでもするストーンだが、本人としては「俺は“法だけは犯さない”秘密工作員」ということなんだろう。トランプ政権と切っても切り離せないと思われる今後の裁判の行方が気になるところ。
 
 


以下、ネタバレメモ
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ストーンを軸において描かれる2000年の米大統領選挙が面白かった。最終的に共和党のブッシュ・ジュニアが勝てばOKだったストーンは、予備選の段階でライバルの改革党を潰しにかかる。まずは人気・知名度十分だったパット・ブキャナンを“共和党”から引き抜き、自らブキャナン陣営の参謀につき、出馬は第三党として力をつけてきていた改革党からとした。ブキャナン勝利モードだった予備選は、突然同じ改革党から出馬したトランプのせいで大混乱。ストーンはいつの間にかブキャナン陣営からトランプ陣営に移っており、参謀を失ったブキャナン陣営に良い策は無く、メディアはトランプのビッグマウスに食いついて、その情報に世間もかき回されてるうちに、トランプはあっさり途中離脱。このことで改革党は有権者からの信頼を失って、ブキャナンは獲得票率0.5%というあり得ない数字を叩き出して大恥をかき、退場。続く本選挙は、民主党アル・ゴアと共和党ブッシュの戦いになり、二者は大接戦のままラストのフロリダ州の開票までもつれ込み、一旦はブッシュが勝ったかに思われたが、州法に基づいて再集計が必要になり、さらに投票用紙読み取り機が不具合だとかどうとかと悶着があったりしたものの、最後に笑ったのは共和党ブッシュ・ジュニア。この展開をどこまで読めてたのか。ストーンとブキャナンは、ニクソン政権でもレーガン政権でも仲間で、長い付き合いやったのになぁ。
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