みきちゃ

30年後の同窓会のみきちゃのレビュー・感想・評価

30年後の同窓会(2017年製作の映画)
4.8
久々再会した元海軍兵の3人が、くっちゃべりながらの小旅行。さりげない会話劇。これは人生を肯定する物語。

トリオのこと大好きになってしまった。クランストン演じるサルのクッッッソガキぶり!笑 昔から変わらず明るいムードメーカーだったんだろう。対してフィッシュバーグ演じるミューラーは、サルと一緒に不良してた海軍時代を黒歴史と呼んで封印し、いまや真面目な聖職者。良識的な態度を崩すことなく、無個性な牧師的台詞を吐き続けるミューラーが面白くなくてしかたないサルは、「その外面の中にいる本当のお前を引っ張り出してやるぜ」とばかりに摩擦を生み続ける。サルは取り繕った人付き合いなど求めていなくて、彼なりに遠慮しながらも敢えて物分り悪くお節介をやく。いまいち相容れない年上二人の間で、カレル演じる気弱そうなドクがおとなしそうにちんまりとしている。

物事が善と悪でスパッと白黒つけられるならどんなに楽か。子供はまず「嘘はダメ」と教えられる。年を重ねるうちに「嘘が全部悪いわけじゃない」とも思える事案にぶち当たる。大人に守られて、厳しい現実を綺麗な風に見せてもらっていただけだったんだと気付く日がきたりもする。世界と視野が広がってあれもこれもと考慮した気遣いが出来るようになると、嘘と真が複雑化して、グレーが増えていく。嘘と真を使い分けること。事実を有りのままに語ること。信じようと決めた話を信じること。どれも人間性が試され、知性を要する行為だと思う。

いたいけなドクの両サイドから、ミューラーとサルがそれぞれ逆のことを囁きかける構図が面白かった。サルのお節介によってドクに伝えられた情報は忖度されたものだったことが分かり、ドクの意志が顔を出す。

例え辛くたって現実を現実としてありのままに知って、その上で自分で考えて選択する権利が誰にだってある。それがサルの正義。

傷は癒えないし、失くしたものは取り戻せない。国の欺瞞は許せないし、悔いだってある。トリオの会話の中には、答えのない問いがたくさんあって、それらの処理の仕方が知的で逞しくて、なんだかんだ米国のこういう国民性だけはやっぱり羨ましい。

まだ闇じゃない。
歌えボブ・ディラン!

=====
2回目鑑賞。非公式の前日譚『さらば冬のかもめ』を観たあとにもう一回。これはあの若い水兵3人だ…って思わせてくれる程度の設定変更におさまってるとわかってグッときた。さらば~と同じ俳優で続編を撮りたいというリンクレイターの願いは叶わなかったけど十分めっちゃ素敵だ。

ノーフォークからポーツマスまで、まったく同じ経路を旅したんだなあ。さらば~をなぞらえたキャラ造形がめっちゃエモい。サル(クランストン)が、ジャックニコルソン演じたバダスキーと同じ癖で喋ってること。ミューラー(フィッシュバーン)が、ヤングのマルホール同様に膝が悪いこと。そしてドク(カレル)が、クエイドのメドウズを彷彿とさせる純粋で大人しい末っ子ぶりを保ったまま、意志を主張して自分の人生を歩むスタイルを会得していること。30年の月日を重ねた3人がちゃんといる感じがした。全員めっちゃはまり役。元海軍らしさがないっちゃないけどまあそれはいい。あの飲食店、あのバー、思い出の場所の既視感もたまらない。遊んでるうちに電車に遅れるのもあの頃のまま。ほかにも反復してるシーンがあるのかも。

2回目の同窓会を観ていた私の脳内BGMはもはや。
向かいのホーム 路地裏の窓 明け方の街 桜木町で
こんなとこにいるはずもないのに

カーステからのエミネムの Without Me に反応するサルのシーンが良い。エミネムの登場に「このラッパー、白人なのかよ!!!」の衝撃を味わった人は多かったはずだし、この歌は歌詞がちょうどサルらしい。「少しの論争は必要。言論の自由がある」的な歌詞。

2作の繋げ方が好き。世代を越えてベトナムとイラクという点を繋ぐ感じもめっちゃ好き。深刻になりすぎなさもほんと良い。自然な流れでラストまで連れてくれたリンクレイターが優しくてしかたない。良かったああ。好きなロードムービー暫定一位で。
みきちゃ

みきちゃ