ロードムービーは映画における一つの形式であるが、象との旅は初めてではないだろうか。ロードムービーは空間の移動が描かれるが、それは自動車あるいは場合によっては電車の速度に依存する時間を前提にした形式である。その速度を前提にしなければロードムービーという形式は存在しないとも言えるのである。
しかし、本作品は象と旅をすることで、速度の時間軸を大幅に停滞させる。
途中パトカーと並走するシーンでは、そのことが描かれていたが、惜しむらくは作品の全体的な構成で速度の減衰が感じられなかった。
象が生きてきた時間の流れと主人公が生きてきた時間の流れ、そのギャップがこの映画の時間軸を代弁する。
そして、象は何も語らない。時間も語りえぬものである。