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判決、ふたつの希望の一人旅のネタバレレビュー・内容・結末

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジアド・ドゥエイリ監督作。

ベイルートを舞台に、ささいな口論から国を揺るがす法廷闘争に発展してゆく二人の男性の姿を描いた人間ドラマ。

アカデミー賞外国語映画賞にレバノン代表作品としてノミネートされた“法廷+人間ドラマ”の力作で、クエンティン・タランティーノのアシスタント・カメラマンとして腕を磨いてきたレバノン出身:ジアド・ドゥエイリがメガホンを取っています。

レバノンの首都ベイルート。キリスト教徒のレバノン人:トニーは身重の妻と暮らしている。ある日、トニーは自宅アパートのバルコニーからの水漏れが原因でパレスチナ難民の工事現場監督:ヤーセルと口論してしまう。後日ヤーセルは謝罪に訪れたが、その時にトニーが放った言葉に激昂したヤーセルは我を忘れてトニーを殴打してしまう。怪我を負ったトニーはヤーセルを提訴、やがてメディアに取り上げられたことで両者の法廷闘争は国を揺るがす事態に発展してゆく…という“異なる宗教・民族同士の法廷劇”が映し出されていきます。

キリスト教徒のレバノン人とイスラム教徒のパレスチナ難民。両者の裁判の進展と共に炙り出されていくのは中東レバノンと周囲の国々の凄惨な歴史。裁判は、両者の表面上の衝突の考察を越えて、そこに至った背景を深く探っていきます。いわば、両者の一連の口論と殴打事件は氷山の一角。その下に眠る大きな氷の塊を紐解いていくことが本作の肝であり主張であります。

国民の40%がキリスト教徒、50%超がイスラム教徒という特異な宗教構成をもつレバノンで、かつて勃発したレバノン内戦という凄惨な歴史。その暗い過去が現在の両者の人生に未だ影を落とし続けているという揺るぎない事実。忘れ難い過去の重みに囚われ続ける両者が辿り着く答えは――。

民族や宗教に基づき相手を見ることは、その人を「個」ではなく大きな「集合体」として認識することを意味します。多様化する現在の世界に求められるのは、「集合体」ではなく「個」同士を前提とした人と人の繋がり。歴史の重みに邪魔をされ正しく相手に向き合えなかった両者が最後に見せる、ささいな視線と笑みの衝突が、過去を乗り越えた先の未来への希望を象徴しています。
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