藍住

判決、ふたつの希望の藍住のネタバレレビュー・内容・結末

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

今年のベスト10入り確実と思えた映画。
観終えた今も、ずっと『判決、ふたつの希望』のことを考えている。

やられたからやり返した、から始まる争いは一つの結論に到達するまでに膨大な時間と労力が必要だ。
全てのことを丁寧に掘り起こし、一つ一つ辿って検証して吟味する。
公平な視点で見る。
これがだれだけ難しいものか、想像に難くない。

この映画では、ある出来事に対して主人公のトニーがヤーセルに謝罪を求めたのにヤーセルが謝罪を拒絶したことが発端であるが、この二人の背景には沢山の複雑な事情が絡み合っている。
そこを紐解いていくと、レバノンという国が抱える深刻な問題が明るみになる。
トニーがヤーセルに謝罪を求めた時、謝罪をすれば収まったのか?
ヤーセルが謝罪をしなかったことにはちゃんとした理由がある。
裁判が進行するにつれて、彼らのバックグラウンドを知れば知るほど、涙が止まらなかった。
観ていて段々悲しくなって、心がズタボロになるんだけど、人間の優しさをちゃんと切り取ってくれる所に救われる。
ヤーセルの車が故障した時、トニーは見捨てられなくて、車を修理してあげる。
このシーンの辺りからずっと泣いていた。

この映画では一つの結論に辿り着く。
人間の可能性を信じてくれたこの映画は本当に素晴らしい。
こんなに清々しくて、希望に満ち溢れたラストシーンを、私は観たことがない。
ラストに視線を合わせるトニーとヤーセルの憑き物が取れたような優しい表情を、私は一生忘れられないよ。

過去の人が犯した過ちをその後の世代が引き継いで、憎悪が連鎖して、それが今も続いているこの世界にも、我々人間が思考することを止めなければ、いつか光が差し込む。
この映画のラストシーンは、現在にも通じる問題に対する一つの答えだ。

前知識があってもなくても、この映画はちゃんと響く。
全体的に無駄がなく、きちんと今の時代に寄り添っている。
法廷がメインの映画では、多分近年だと一番良いと感じた。
もっと言うと、私の中では『十二人の怒れる男』以来の最高傑作。
是非、大きなスクリーンで観てね。
藍住

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