幽斎

MOST BEAUTIFUL ISLAND モースト・ビューティフル・アイランドの幽斎のレビュー・感想・評価

4.2
【警告】ゴキちゃんが苦手な方は御注意下さい。
運営支援してる京都のミニシアター出町座で上映された作品。監督/製作/原案/脚本/出演を兼ねるスペイン出身Ana Asensioはモデル時代に仲間から聞いた秘密クラブの話を脚本化するも採用されず、6年目にして実現した作品。

本作が描くのは人の狂気と悍ましさ。コンプライアンスが厳しい今でも平気で性的差別をするバラエティ番組を見ると胸糞悪く為るし、無自覚ほど怖いモノは無い。舞台はニューヨークのマンハッタンですが、京都もホテルが乱立し人が住む土地が剥され、洛内と呼ばれる中心地からの人口流失が止まらない、土地が高騰しアパートすら作れず、学生が難民化。お座敷に向かう舞妓さんの袖を捕まえるなんてザラ。参院選真っ只中ですが、どの候補も「観光公害対策が必要」と訴えてる。祇園祭で賑わう京都ですが「おもてなし」は摩耗品で有る事を理解して欲しい。本作もニューヨークの裏側を全編に漂う不穏な空気感と共に炙り出してる。主人公のリアルな絶望感は、私達が見世物小屋を覗いてる錯覚に陥らせる。

移民問題を叫ぶ程切り込んでは無いが、最下層に近い主人公。冒頭に警告したゴキはその象徴。風呂のシーンは極めて重要で、主人公とゴキの立ち位置を上手く表現してる。彼女が憐れむ、いや見下してるのはゴキぐらいなのだ、このニューヨークでは、辛い。物語はワン・シチュエーションで、短編小説を読む味わいも有る。

アンダーグラウンド、とよく表現しますが内容はタイ産で2006年公開「レベル・サーティーン」レビュー済のリメイク作4.0評価「13の選択」に近い。決して突飛なゲームでは無く、逆に拍子抜けするレベル。しかし。だからこそのリアリティが其処に有る。次も有るかな?と思わせる絶妙なラインが秀逸。此処で主人公の立場は逆転し自らがこの場所ではゴキ、本当の最下層なのです。しかし勇気ある行動で尊厳を守る彼女に、人としての有り様を見た。

どんなゲームかは御覧頂くとして、この作品の優れてる点として客観性が有る。見世物小屋を覗いてると思ったら、ゲス野郎と同じ視点に立たされる。つまり加害者と同じ立ち位置で主人公を見つめてる。これは推理小説でよく有る、安全圏に居る読者が知らない内に犯行現場で共犯化するトリック。正に「深淵を覗く時、深淵もまた貴方を覗いている」のだ。

日本で貧困を描くのはタブーかもしれませんが、私の大好きな「ザ・ノンフィクション」を観る度に日本も2層化が止まらない現実を突き付けられる。主人公が辿り着く「ささやかな幸せ」を私達はどう捉えたらよいか、何とも言えない余韻が残る。エンディングが「サンサーラ」なら泣けたかもしれない。

主人公の精神状態に寄り添える方には、何かを考えさせられる社会派ドラマ。観る人を選ぶ作品なのは間違いない。
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